人を裏切ることを知らない誠実なサラリーマンに読んで欲しい
「残酷すぎる成功法則」エリック・バーカー著/飛鳥新社
人はどうしたら成功するのか。それを、過去に行われたさまざまな実証研究をきちんとレビューして、法則を導き出すというのが本書の狙いだ。
私自身もそうだったが、本書を読みながら、最初の3分の1くらいまでは頭が混乱すると思う。「これをやれば成功する」という明確な答えが書かれていないからだ。しかし、読み進めるうちに答えが見えてくる。成功のカギは、著者が調整(アラインメント)と呼ぶバランス感覚なのだ。
本書で一番印象に残った話は、「囚人のジレンマ」を繰り返すゲームだ。2人とも黙秘を続ければ軽い刑で済まされるが、相手が自白して自分が黙秘すると、重刑が下されるという有名なジレンマだ。このゲームを繰り返す時に、どのような戦略を採ったら刑が軽くなるのかを競う大会が開かれた。さまざまなチームが独自戦略のプログラムを持ち寄って戦い、そこで優勝したのは、最初は相手を信頼し、相手が裏切った場合にはこちらも裏切るという、しっぺ返し戦略を採ったチームだった。
私は悪女の研究をライフワークでしているのだが、このやり方は、悪女の戦略と一緒だ。
何でも相手の言うことを聞いていたら、都合のいい女にされてしまう。かといって、お高くとまっているだけでは誰も近寄ってこない。相手の状況、自分の立場を冷静に分析しながら、時に裏切り、そして時に聖母のような優しい手を差し伸べるのが悪女の常套手段だ。
悪女の例えだけではしっくりこないかもしれないので、もうひとつ例を挙げよう。クレーム処理の鉄則は、苦情に対して真摯に耳を傾けると同時に毅然と対応することだ。平身低頭で対応するだけではクレーマーに付け込まれてしまう。だから、クレーム処理の名人は、時に優しく、時に毅然と振る舞うのだ。
本書を読んだからといって成功が保証されるとは、私は思わない。仏の顔と鬼の顔を切り替える間合いの取り方は意外と難しいからだ。
ただ、この仕掛けを知ってビジネスに臨むのと、知らないで臨むのでは大きな違いだ。だから、人を裏切ることを知らない誠実なサラリーマンにこそ読んで欲しいと思う。
★★半(森永卓郎)