負債相続放棄のタイムリミットはわずか3カ月
2015年の税制改革以降、節税や納税資金の調達といった「相続対策」の必要性を耳にする。しかし、相続の対象となるのは資産だけではなく、負債、つまり借金も相続されることは忘れられがちだ。
しかも、資産と比較して故人の負債については配偶者でも子供でも気づきにくく、そのうえ相続放棄には申し立ての期限など一定のルールがあることもあまり知られていない。椎葉基史著「身内が亡くなってからでは遅い『相続放棄』が分かる本」(ポプラ社 1400円+税)では、負債相続支援を専門に手がける司法書士が、“負の遺産”から自身や家族を守る知識を伝授している。
国税庁の統計資料によると、1989年に約4万件だった相続放棄の件数は、2015年では19万件超。そのほとんどが負債相続の放棄であるという。相続放棄を行うとプラスの財産も相続することができなくなるが、少なくとも故人の借金に苦しめられることはなくなる。
しかし、その手続き期間は民法で「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」と定められている。被相続人死亡の事実を知った時から3カ月以内にあらゆる手続きを済ませなければ、相続放棄したくてもできなくなるわけだ。
この3カ月ルールには救済策もある。幼少の頃の両親の離婚で、長年にわたり生き別れ状態にあった親からの相続が発生したケースで、負債まで知る由がなかったとして3カ月以上経過してからの相続放棄が認められた最高裁判例がある。
しかし、これは特殊な事例と言わざるを得ない。そして一般的な家庭の場合、たとえ負債を知る由がなかったとしても、不動産なり預貯金なりの資産を相続する手続きを済ませた後では、多額の負債の存在が発覚しても相続放棄はまず認められないというから恐ろしい。
“うちの実家に借金はないはず”などと安易に考えていてはいけない。親や親族が会社を経営している場合は、借入金という負債がある可能性もある。親の人間関係を把握していないと、誰かの連帯保証人になっていたなどの事実に驚かされかねない。本書では、さまざまな家族の事例を紹介しながら、でき得る手続きについても詳細に解説している。いざというとき慌てないためには、知識が必要だ。