わざと飼育員に水を吹きかけ仲間で笑いあうチンパンジー
動物たちの喜怒哀楽を捉えた豊富な写真とともに、さまざまな動物行動学研究の文献を紹介する、ベリンダ・レシオ著、中尾ゆかり訳「数をかぞえるクマ サーフィンするヤギ」(NHK出版 1600円+税)。多くの動物に豊かな感情や高い知性があることをうかがわせるエピソードが満載だ。
チンパンジーやゴリラは、愉快な時に口を開けて歯を見せて笑う。「アハハ」という笑い声を発することはないが、息をもらしてあえぐような音を出す。アメリカのヤーキーズ霊長類研究所で飼育されているチンパンジーは滑稽な場面が大好きで、水を飲んだ時に口の中に少し残しておき、何げない顔でしばらくうろつき回り、飼育員が近づくと水をプーッと吹きかける。そしてそのさまを見た他のチンパンジーたちは一斉に歯を見せ、あえぎ声を上げながら転げ回るそうだ。
“笑いの効能”は動物の世界にもある。ワシントン州の動物行動研究所では、犬が飼い主と遊んでいるときに発する独特のあえぎ声、つまり犬の笑い声を録音し、保護施設の犬に聞かせる実験を行った。すると、怯えたり弱ったりしていた犬たちが尻尾を振りだし、他の犬とも元気に遊ぶという変化が見られたという。
動物の知性やコミュニケーション能力について研究しているのが、ノースアリゾナ大学の生物学者であるコン・スロボチコフ博士だ。30年以上にわたりリス科のプレーリードッグが持つ“言語”を研究してきた博士によると、彼らは名詞や形容詞を組み合わせた言葉(鳴き声)を操り、仲間に危険を知らせているのだという。
その証拠に、巣穴の横を人間が通った時と犬が通った時の鳴き声の周波数は違うし、青い服を着た人間と黄色い服を着た人間、急いでいる人間とゆっくり歩く人間などでも、鳴き声の周波数は異なっていた。結果、プレーリードッグは「青いシャツを着た小さい人間がゆっくり歩いてくる」という複雑な情報まで伝える能力があると考えられるのだという。
他にも、雪の斜面を滑り降りるワタリガラスの遊び、仲間を救出しようとするネズミ、死んだ連れ合いを埋葬するアカギツネなど、動物たちの知られざる行動を紹介。読み終えたとき、あなたの動物観が変わるかもしれない。