SNSで大切な一生を邪魔されてなるものか
「極上の孤独」下重暁子著 幻冬舎新書/780円+税
「友達100人できるかな」という言葉が示すように、親しい他人の存在は重要なものであるとされてきた。本書はベストセラー「家族という病」の著者による孤独論。孤独こそが人間を高みに持っていくということについてと、孤独は案外貴重な時間であることを伝える。
昨今、SNSやLINEなどにより「つながり」がますます重視されているかのように感じられるが、「LINEいじめ」について、著者はこう言及する。
〈かつては自殺の原因は、自らの存在への疑問など本人の悩みが大きかったのが、今では、人間関係が主な原因になってしまった。たかが人間の考え出した機器に自分の大切な一生を邪魔されてなるものか〉
著者はアフリカの大地の木の上のホテルから2頭のサイがケンカをする様子を見たり、人間の気配がせず、獣の動く音や鳴き声だけが聞こえる軽井沢の山荘での孤独経験なども記し、こう結論づける。
〈この山麓まで闇の中をやってくる人間はいない。ほんとうに怖いのは人間であり、自然のほうからいたずらはしない。そのことを信じられるようになってから、軽井沢の孤独は別格だと感じるようになった〉
かといって著者が人間嫌いというわけではない。30歳以上も年下の友人と積極的に接し、時に飲み会は午前さまに。だが、本来的に人間は孤独であることを喝破したうえで、他人に依存して生きることの危険性についても述べる。それは、本人がNHKアナとして行き詰まっていた頃に、民放のニュース情報番組に抜擢するというオファーがきた時のことだ。NHKにいた方がいいと考える当時の著者の恋人の母親(彼本人の意向もあっただろう)により、その選択をせず「飛ぶ」ことができなかった。
本書で強調されたのが、決断するのは自分であり、他人に相談をしたとしても、その段階で自分の中で結論は、ほぼ出ているという点だ。結局、自分の人生は自分で決めるしかないのだ。
先日、私の会社員時代の同期が45歳で亡くなった。葬式には大勢の人が来ていたが、早過ぎる死を悼む声を多数聞いた。だが、同時にひとつの救いも感じた。老人になってからの死は「その他大勢」になるだけで、45歳であれば、その死をより多くの人に悲しんでもらえるからだ。
本書には2012年に83歳で亡くなった著者の俳句仲間である小沢昭一氏による「あんまり長生きすると、友達が一人もいなくなるよ」という言葉も紹介されている。
★★半(選者・中川淳一郎)