うだつの上がらない男が隠れた才能を発揮
「ひなた弁当」山本甲士著/小学館文庫 620円+税
縄文人の主食はクリ、クルミ、ドングリといった堅果類だった。縄文時代の始まりは約1万5000年前。稲作が始まったのは3000年前。つまり、ドングリはコメよりはるかに長い期間、日本人の食を支えてきたのである。本書の主人公はこのドングリに出合うことで大きく運命を変えていく。
【あらすじ】
芦溝良郎は住宅販売会社の営業課長補佐、49歳。何事につけ要領が悪く、他人から低く見られる。そんな良郎にリストラの勧告が舞い込む。
上司にだまされ、あっさり出向を受け入れ退社するが、出向とは名ばかり。出向先の人材派遣会社にポストはなく、派遣社員として登録しろという。登録したものの、良郎の年齢とキャリアで回ってくるのは荷物搬送など体にきつい仕事しかなく、腰痛持ちの身では長続きしない。結局、失業状態となり、精神的にも追い込まれてしまう。
途方に暮れつつ近所の公園のベンチに座っていると、ドングリを拾う母娘を見かける。そこで思いつく。確か縄文人はドングリを食べていたという。これを食べれば飯代が浮く、と。
これに味を占めた良郎は、ドングリ以外の野草やオイカワ、フナ、ウナギといった魚など、タダで手に入る食材を集めて自ら調理することに。味にも自信が出てきた良郎は、休業中の弁当屋に掛け合って手作りの弁当の販売を始める。すべて自然食材で、珍しい天然ウナギを一切れのせたのが評判となり、新聞やネットで取り上げられ……。
【読みどころ】
会社では仕事ができない男とレッテルを貼られ、家では妻や娘から相手にされない。そんなうだつの上がらない男が、隠れていた才能を発揮しリストラという逆境をはね返す。絵に描いたようなスカッとする大逆転劇。
<石>