折れた心を癒やす京都の仕出し弁当屋

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「ちどり亭にようこそ」十三湊著 メディアワークス文庫/610円+税

 パリでは、いまちょっとしたBENTO(弁当)ブームで、昼時にはイートイン可のBENTOレストランに行列ができたりしているという。ランチボックスのようなものはあっても、品数は少なく、日本の弁当のように、ひとつの器の中にさまざまな食材が揃ったコンパクトで完結した食事というのが珍しいのだろう。本書は、京都の仕出し弁当屋を舞台に、弁当の魅力が存分に語られる。

【あらすじ】京都の姉小路通沿いにこぢんまりと立つ「ちどり亭」。商品は、日替わり弁当、日替わり弁当ミニ、おむすびセットの3種類。その他、注文に応じて仕出しの予約も受ける。

 店主の花柚は、自宅にある茶室が重要文化財に指定されているという旧家のお嬢さま。跡取りの兄が失踪したため、毎週お見合いをして婿探しに励んでいるのだが、いつも残念な結果に。基本的には花柚がひとりで切り盛りしているが、週に2回、大学生の彗太が手伝いに来る。

 一人暮らしでろくなものを食べていなかった彗太は、「食べ物を全部人任せにしちゃだめ!」と花柚に怒られて、アルバイトがてら料理の勉強中でもある。彗太の同級生・菜月の失恋を癒やすオムライス、食物アレルギーでみんなと同じようなお弁当を食べられなくて寂しい思いをしている小学生の友哉のためにこしらえた特製花見弁当など、恋愛運はないけれど、人を思いやる心のある花柚が作る弁当が、ちょっと心が折れている人たちを優しく癒やしていく。

【読みどころ】冷めてもおいしいのがお弁当の身上。そのためには味付けを濃くし、水分が出ないようにする。おひたしが水っぽくならないようにする「醤油洗い」など、いろいろな小技も登場し、弁当作りの実践にも役立つ。

 <石>

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

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