「ディス・イズ・ザ・デイ」津村記久子著
ワールドカップが開催中だが、サッカーにはいろいろあって、ワールドカップだけがサッカーではない。本書は、国内サッカーリーグの2部を舞台にした作品集だ。
しかも1部昇格の希望があるチームも登場するが、大半は中位に甘んじているか、降格の危機にあるチーム。それでも応援し続けるサポーターの日々を描いていく。そうなのである。サッカー小説とはいっても、本書は選手を描くのではなく、徹底してサポーターのドラマを描いていく。
たとえば、社会人になってから松江04のファンになった周治が、父方の祖母を松江に招待することを思いつく顛末を描くのが「おばあちゃんの好きな選手」。父方の祖母といっても、周治の両親は離婚しているので、会ったのは母方の祖母の通夜のときだけ。そのときに、おばあちゃんが松戸アデランテロのファンであることを知り、その1年後に松江04のファンとなった周治がおばあちゃんを思い出して招待するというわけ。ちなみに、松戸アデランテロと松江04はともに2部の中位にいるチームで、最終節に勝っても負けてもさして順位に影響はない。
「来年は自分が松戸に松江を見に行きます」と周治が言うと、おばあちゃんが少し驚いたように目を見開くラストがいい。希望があると生きる意欲が湧いてくる。周治よ、君はいい青年だ。おばあちゃんと一緒に、私たちもまた、ほっこりとした気分になる。
(朝日新聞出版 1600円+税)