「あやかし草紙」宮部みゆき著
小説を読むということは本来、とても愉しいことだ。あるときはまだ見ぬ地に案内され、あるときは自分が見過ごしていたことの意味を教えられる。読書が愉しいのは、そういうふうに書物の中に多くの発見があるからだ。知らないことを教えられるのは愉しい。宮部みゆきの小説を読むたびにそんなことを思うのは、この著者の作品には、いつもその発見が多いからだろう。
宮部みゆきが書き続けている「三島屋変調百物語」というシリーズには、特にその発見が多い。袋物屋の三島屋が江戸中のふしぎ話を集めているのは、ある事件をきっかけに心を閉ざした姪・おちかのためである。広い世間にはさまざまな不幸があり、それぞれの償いようがある。暗いものをかかえこんでいるのはおちかだけではない。それを説教ではなく、他人さまの体験譚として聞かせようというのが三島屋の主人・伊兵衛の考えであった。
というわけで、「たったひとりの観客であるおちかの前で、ふしぎな体験をした者がその話を披露する」というこのシリーズが成立する。
「おそろし」「あんじゅう」「泣き童子」「三鬼」と続いて本書が第5弾だが、そういう性格上、続いているわけではないので、どこから読んでもいい。
今回は5話を収録しているが、相変わらずうなるほどうまい。さらにシリーズの重要な転回点となる作品でもあるのだが、それは読んでのお愉しみにしておこう。(KADOKAWA 1800円+税)