「死後開封のこと」(上・下)リアーン・モリアーティ著、和爾桃子訳
創元推理文庫の新刊でこのタイトルだと、サスペンス・ミステリーを連想するかもしれないが、実はたっぷりと読ませる家族小説であり、壊れそうな関係をきわどく描く夫婦小説でもある。ミステリー的興趣はもちろんあるけれど、物語の力点は明らかにそちらのほうにある。そしてこれが実に読ませるから、こたえられない。
「死後開封のこと」と書かれた封筒を見つける妻がいる。夫といとこが愛し合っていることを知った妻がいる。殺された娘のことを忘れられない老婦人がいる。
その3家族、3人の女性を描く長編だが、彼女たちは今日を、そして明日を、どうやって生きていけばいいのか。その迷いと哀しみと怒りの日々を、とてもリアルに描いていくので、どんどん物語に引きずりこまれていく。
この作者はオーストラリアの作家で、日本初紹介は2年前に翻訳された「ささやかで大きな嘘」という長編だった。これは、保育園に通う子を持つ保護者たちの微妙な関係を軽妙に描いたもので、ミステリーでありながら同時に「ママ友小説」であった。それもまたじっくりと読ませたが、特徴は夫たちも出てくるものの、たいした役も与えられず、徹底して女性たちの物語であることだった。
その持ち味は本書でも変わらない。「死後開封のこと」もまた、ヒロイン小説である。男は関係ないのだ。この手のものを描くとリアーン・モリアーティは冴えまくる。まことにうまい。
(東京創元社 各980円+税)