「菩薩花」今村翔吾著
羽州ぼろ鳶組シリーズの第5巻である。これは「火消小説」だ。主人公は松永源吾。江戸の火消の世界がこれほど複雑であったとは驚く。定火消、大名火消、町火消が入り乱れているのだ。たとえば、士分の火消が太鼓を打ち、それを聞いたあとでないと町火消は半鐘を鳴らすことが出来ず、さらに同じ士分でも最も火元に近い大名家が初めに太鼓を打つきまりになっているとか、細かなルールもあって複雑きわまりない。
松永源吾は出羽新庄藩に雇われている火消頭取だ。つまり大名火消である。新庄藩は予算が限られているので、いつもつぎはぎだらけの衣装を着ている。最初はバカにされて「ぼろ鳶組」と呼ばれていたが、そのうちに畏敬と愛着をこめて呼ばれるようになる。愛すべきキャラクターが松永源吾のまわりには多いのである。
もちろん、「ぼろ鳶組」だけでなく、他の大名火消に定火消、さらには町火消の男たちが次々に登場してくるが、出来ればこの第5巻「菩薩花」からお読みになることをすすめたい。本書には、「火消番付」が挟み込まれているのだ。これを見ると、主人公・松永源吾は西の大関だとわかるし、九紋龍(こういう通り名が付けられている)の辰一は東の関脇なんだとすぐにわかる仕組みになっている。この「番付」をかたわらにおいて1巻ずつ読んでいけば、また楽しみも倍加するのではないかと思う。
(祥伝社 740円+税)