著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 羽州ぼろ鳶組シリーズの第5巻である。これは「火消小説」だ。主人公は松永源吾。江戸の火消の世界がこれほど複雑であったとは驚く。定火消、大名火消、町火消が入り乱れているのだ。たとえば、士分の火消が太鼓を打ち、それを聞いたあとでないと町火消は半鐘を鳴らすことが出来ず、さらに同じ士分でも最も火元に近い大名家が初めに太鼓を打つきまりになっているとか、細かなルールもあって複雑きわまりない。

 松永源吾は出羽新庄藩に雇われている火消頭取だ。つまり大名火消である。新庄藩は予算が限られているので、いつもつぎはぎだらけの衣装を着ている。最初はバカにされて「ぼろ鳶組」と呼ばれていたが、そのうちに畏敬と愛着をこめて呼ばれるようになる。愛すべきキャラクターが松永源吾のまわりには多いのである。

 もちろん、「ぼろ鳶組」だけでなく、他の大名火消に定火消、さらには町火消の男たちが次々に登場してくるが、出来ればこの第5巻「菩薩花」からお読みになることをすすめたい。本書には、「火消番付」が挟み込まれているのだ。これを見ると、主人公・松永源吾は西の大関だとわかるし、九紋龍(こういう通り名が付けられている)の辰一は東の関脇なんだとすぐにわかる仕組みになっている。この「番付」をかたわらにおいて1巻ずつ読んでいけば、また楽しみも倍加するのではないかと思う。

(祥伝社 740円+税)



【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動