「チンギス紀一 火眼」北方謙三著
なんだかぞくぞくしてくる。ついに、チンギス・カンの物語が始まったのだ。
「水滸伝」19巻の刊行が始まったのが2000年、それから「楊令伝」15巻、「岳飛伝」17巻と続いて、北方謙三の「大水滸伝シリーズ」は全51巻で完結した。その間、16年。すごい力業である。
ところがこれで終わらなかったから、驚く。楊令の遺児・胡土児が吹毛剣を持って蒙古へ向かっていく、というのが「岳飛伝」のラストであった。それが、北方「大水滸」の静かなる終幕で、悠々たる筆致の見事なエンディングといっていい。
しかし、九紋竜の史進(さすがに年老いているが、まだ元気)が吹毛剣を胡土児に届ける挿話が、「岳飛伝」の第14巻にあったことを考えると、「チンギス紀」の構想は前からあったことがうかがえる。胡土児の息子がテムジン(のちのチンギス・カン)というのだから、楽しい。「大水滸伝シリーズ」と、「チンギス紀」をつなぐのは、吹毛剣である。
続いているとはいっても、「大水滸伝シリーズ」とは違う物語なので、その「大水滸」を未読の方は、ぜひこの「チンギス紀」からお読みいただきたい。またまた長い付き合いになるのだ。この「チンギス紀」を読みながらゆっくりと「大水滸伝シリーズ」に遡ればいい。第1巻「火眼」と、第2巻「鳴動」が同時発売だが、読み始めたらやめられない。興奮の歴史小説だ。すごいぞ。
(集英社 1600円+税)