「ウォーターゲーム」吉田修一著
ダム補修現場の作業員の若宮真司は、ある夜、雇い主の若社長の手引きで、ダム決壊の現場を目撃する。濁流が町をのみ込んだ大惨事は、事故ではなく、何者かが仕組んだ爆破によるものだった。その夜から、真司は姿を消した。
一方、AN通信の鷹野一彦は、部下の田岡とともに、複数の爆破計画を阻止する任務を負って動いていた。
異色の産業スパイ・鷹野一彦シリーズの第3作。水道事業民営化に関わる利権を巡って、政治家、巨大企業、投資家の思惑が交錯、虚々実々の駆け引きを繰り広げる。ダムの爆破テロ事件に巨悪のにおいを嗅ぎつけた新聞記者・九条麻衣子や、自由奔放なスパイ、アヤコたちの動きが絡み合う。
AN通信は表向きアジアのリゾートや旅ガイドを扱う通信社だが、実は、虐待された子供や孤児を集めて諜報員に育て上げるという特殊な産業スパイ組織。鷹野も田岡も、鍛え上げられた精神力と身体能力で、007顔負けの活躍を繰り広げる。
命を賭して世界を駆けるスパイたちは、つらい過去を背負っているがゆえに、過酷な仕事の場でひときわ輝くのだ。
朝日を浴びるアンコールワットや熱風のタクラマカン砂漠など、舞台は壮大だ。やがて、姿を消していた作業員、真司とAN通信の意外なつながりが見えてきて、物語がさらなる展開へ――。
(幻冬舎 1600円+税)