「彼女のこんだて帖」角田光代著
連日の猛暑にいささかうんざり気味の今日この頃だが、こう暑くなると、そーめんのようなさっぱりしたものを食べたくなる。一方で土用の丑の日のように、あえてうなぎで精を付けようというのもこの季節ならでは。そうした「季節の食」があるとすれば、こんな気分のときにはこういうのが食べたくなるという「気分の食」もある。
本書はまさに「気分の食」がオンパレードの連作短編集。
【あらすじ】4年間交際した恋人と駅で別れを告げた協子は、帰りの満員電車のなかで「肉だ、肉しかない」と考え続けていた。では、なんの肉がいいか。やわらかい松阪牛か、それとも黒豚のしゃぶしゃぶか。いやもっと歯応えのあるものを引きちぎって……そうだ、骨付きラムのステーキだ。がむしゃらに食べながらも協子は気づく、別れた恋人にも食べさせたいと思っていることを。
この「泣きたい夜はラム」に始まり、長続きしない恋ばかりしている景が恋人のために手作りする「中華ちまき」、主婦業をストライキして家出した衿が心配で戻ってみると、夫が作って待っていてくれた「ミートボールシチュウ」、憧れの先輩の気を引きたいためにダイエット決行中の妹を心配して、尚哉が生地から作ってあげる「ピザ」、恋人と暮らし始めたものの、一向に働く様子のない彼に業を煮やした依子がなけなしのお金を使い切って作った「松茸ごはん」……。彼女(彼)たちの気分と共鳴して生まれた、とっておきの全15品が登場する。
【読みどころ】1作あたり8ページほどの短いものだが、ロンド形式で、前作に脇で登場した人が次作の主役となるという形式。巻末にはカラーで料理の写真とレシピも付いている。フィクションと実用が結合した恋愛+料理小説集。(講談社 530円+税)
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