「天地に燦たり」川越宗一著
豊臣秀吉の朝鮮出兵は、これまで数多くの作品で描かれてきた。最近では、飯嶋和一著「星夜航行」もこの朝鮮出兵を描いている。本書は、第25回松本清張賞の受賞作だが、新人賞の応募作であることを考えれば、そのように数多くの作家が描いてきた題材を選ぶとは大胆だ。普通なら先達が見逃してきた題材を選ぶもので、よほど自信がなければできるものではない。と思って期待して読み始めたが、なるほどと納得。たしかにうまい。
島津の久高、朝鮮の明鐘、琉球の真市――この3者の視点で描くのである。この趣向が際立っている。なぜなら、攻める者もいれば、攻められる者もいるからだ。両方を描いてこそ、戦争の実態が浮かび上がる。
さらに本書を特異なものにしているのは、琉球の真市の存在だろう。琉球国の商人であると同時に密偵、と明かして久高に接近する真市は、「琉球人はみなそうなのか」と久高に問われて、こんなバカな真似をするのは私くらいです。でもみな同じ気概を持っておりますと言う。気概? なおも問う久高に、マクトゥソーケー、ナンクルナイサ、と真市は答える。これは、誠を尽くせばなんとかなる、という意味だ。
朝鮮出兵をシリアスに描きながらも、この真市のやわらかさが物語に奥行きをつくっている点は見逃せない。さらには、気品ある文体と的確な描写も特筆もの。久高が光の中を進んでいくラストも鮮やかだ。 (文藝春秋 1500円+税)