著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「スタンドアップ!」五十嵐貴久著

公開日: 更新日:

 ボクシング小説である。リングに上がるのは沢口愛33歳。つまり、女子ボクシングの世界を描く長編である。それだけでも異色だが、いやあ、すごいぞ。

 7年前に結婚した真利男のDVに、愛はずっと悩まされていた。この長編は、そのヒロインが幼い娘を連れてDV男から逃げるところから始まっていく。で、マンガとアニメオタクが集う新大久保の店で働き始める。

 事態が進展するきっかけは、同僚のモモコがダイエットのためにボクシングジムに通いだすこと。モモコはひとりでは心細いと愛を誘うのである。1カ月間無料と聞いて、ヒロインも通うことになるが、モモコは早々に断念し、残ったのは愛だけ。ボクシングの魅力を知った彼女はジム通いを続けるのである。こうなればヒロインがリングに上がるまではただの一歩だ。

 記念のためにプロテストを受けただけなのに、すすめられるままリングに上がったものの、全然勝てないのに、ひょんなことから美闘夕紀の相手に指名されるのである。美闘夕紀はオリンピック女子フライ級の銀メダリストで、将来を嘱望されたボクサーだ。愛が勝てるわけがない。ようするに、かませ犬だ。

 ところが、そのリング上の戦いが白眉。何度ダウンしてもヒロインは立ち上がるのだ。もう私は逃げない、絶対に逃げない、と何度も立ち上がるヒロインの姿に、目頭が熱くなってくる。ラスト70ページが圧巻だ。

(PHP研究所 1700円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  4. 4

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  5. 5

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  1. 6

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  2. 7

    大阪万博を追いかけるジャーナリストが一刀両断「アホな連中が仕切るからおかしなことになっている」

  3. 8

    NHK新朝ドラ「あんぱん」第5回での“タイトル回収”に視聴者歓喜! 橋本環奈「おむすび」は何回目だった?

  4. 9

    歌い続けてくれた事実に感激して初めて泣いた

  5. 10

    フジ第三者委が踏み込んだ“日枝天皇”と安倍元首相の蜜月関係…国葬特番の現場からも「編成権侵害」の声が