著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「仕事は2番」こざわたまこ著

公開日: 更新日:

「お仕事小説」とは、特定の仕事を通して何事かを発見していくドラマを描くもので、その仕事ならではの特殊性があればあるほど、望ましい。普通の小説と一線を画することができるからだ。

 そういう観点に立つと、「お仕事小説」の衣装はつけていても、本書は少し異なっている。OA機器を販売する吉丸事務機株式会社に勤務するさまざまな人を、それぞれの視点から描く連作小説だが、OA機器は物語にあまり関係がないし、それぞれの部署の特殊性もほとんど関係ない。だから本書はひとつの会社で働く人々を描く「会社小説」として読みたい。その文脈で読むと、本書はたっぷりと堪能できる。

 たとえば、総務課長の内野は、部下のOLから「ウッチー、滑舌悪すぎじゃない?」と言われているが、外から見るとそのようにウザイ課長も、彼が視点人物になる短編を読むと、若いときには夢があり、恋があったことを私たちは知るのだ。それがいま、妻にも娘にも邪険にされて、それで会社でOLたちに揶揄されているのでは応援したくなる。

 印象に残るのは最後の一編だ。吉丸事務機株式会社が入っているビルの清掃会社で働く老人を描くものだが、彼の孤独と、やる気のない若者との現在の仕事を、きりりと描いて強い印象を残している。目新しさはないものの、その丁寧な筆致は一票を入れておきたい。今後に注目だ。(双葉社 1400円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動