「与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記」澤田瞳子著
真楯は、中央の官司で労役に当たる役夫として、故郷の近江から平城京に徴発される。真楯が配属されたのは、大仏造営が進められている造東大寺司だった。
造仏所には、鋳造を間近に控えた盧舎那仏の「仏様」がすでにそびえ立っていた。
しかし、奴婢の舎薩が台座の外型を壊したため工期に遅れが出る。厳しい労働の合間の唯一の楽しみは、炊屋の宮麻呂が作る三度の食事だ。宮麻呂は病気で伏せっている役夫にまで食事を届けさせる、優しい心の持ち主だった。ある夜、宮麻呂を手伝いウナギのわなを引き上げにいった真楯らは、造仏所に入り込んだ怪しい人影を目にする。(「山を削りて」)
大仏造営に関わる人々の姿を、食を通して描く連作時代小説。
(光文社 700円+税)