最新 織田信長本特集

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「信長はなぜ葬られたのか」安部龍太郎著

 茶番のような総裁選や、相次ぐ企業の不祥事報道を目にしていると、優れたリーダーの不在を痛感する。坂本龍馬らの歴史上の人物が愛されるのは、彼らが強力な牽引力で日本のかじ取りをしたからであろう。そこで今週は、龍馬と人気を二分する日本史のヒーロー・織田信長に関する本を紹介する。

 人気作家が、日本史最大の謎「本能寺の変」を新たな視点で読み解く歴史エッセー。

 1580年、信長がイエズス会を通じて貿易で利益を上げ、軍事技術の供与も得ていたポルトガルをスペインが併合。信長は、新たにスペインと外交関係を築くためイエズス会東アジア巡察師ヴァリニャーノと交渉を続けるが、話し合いは決裂。イエズス会とスペインを敵に回したため、キリシタン大名や南蛮貿易で富を得ていた豪商らが信長を見限り政権が不安定化する。

 この機に乗じた将軍・義昭の命を受けた五摂家筆頭近衛前久の工作によって光秀が変を起こしたという。さらに、変の背後で暗躍する国内キリシタン勢力の存在に言及するなど、戦国時代を世界の大航海時代に位置づけ、本能寺の変を論じる。

 (幻冬舎 820円+税)

「信長の原理」垣根涼介著

 信長の抱える渇望と、主の真意が分からず悩む家臣たちの葛藤を、「パレートの法則」をテーマに描く歴史長編。

 織田家の嫡男に生まれながら、荒ぶる気性で母親からさえ疎んじられてきた信長(幼名・吉法師)だが、父の信秀だけは跡継ぎとしてその資質を認めていた。しかし、信秀の家臣の多くは、信長を軽んじ、弟の信勝こそ跡継ぎにふさわしいと考える。

 そんな中、信勝付の一番家老・佐久間盛重は、信長の言動に次第に興味を抱く。

 ある日、侍の次男、三男を集めて合戦ごっこをする信長にその理由を尋ねた盛重は、逆に「蟻の動きを見たことがあるか」と問われ戸惑う。信長によると、戦場で見た兵の動きは蟻と同様で、恐れるのは兵力の2割だけという。そのとっぴな発想に盛重は信長の可能性を感じとる。

 (KADOKAWA 1800円+税)

「信長公記」和田裕弘著

 信長研究の基本資料となる「信長公記」は、信長の直臣・太田牛一が記したもの。多くの伝本が存在するが、足利義昭を奉じて上洛した永禄11(1568)年から本能寺の変で倒れる天正10(1582)年までの15年間を記録した本編と、これに上洛以前のことを記した「首巻」を伴ったものとに大別できる。ドラマや小説で描かれる父親の葬儀で仏前に抹香を投げつけるシーンや岳父である斎藤道三との対面など、若き日の信長のエピソードはこの本を土台にしているという。

 本書は、馬術の稽古に励む姿や風変わりだといわれていた服装について記した若き日の日常から、桶狭間の戦いや比叡山焼き討ち、長篠の戦いなど、その生涯をたどりながら、信長公記では実際にどのように書かれているのかを解説。ページから信長の実像が浮かび上がる。

 (中央公論新社 900円+税)

「信長君主論」関厚夫著

 ルネサンス期の思想家・マキャベリの言葉で信長とその時代を読み解く歴史エッセー。

 本能寺の変で信長が発した最期の言葉「是非に及ばず」は、「しかたがない」「やむを得ない」と訳されることが多いが、著者はあの信長の言葉とは思えないと疑問を抱き、その真意に迫る。

 一方で変の5カ月前、安土城で年賀に訪れた大名らの前での信長の振る舞いを取り上げ、「肩で風切る傲慢なる者よ、汝らの運命など知れぬのだ」とマキャベリの詩の一編をもとに、その後の運命を暗示。

 さらに、自らを神格化した信長の行状を取り上げ、「神への畏れのないところでは、その国家は破滅のほかはないだろう」とのマキャベリの言葉を紹介しながら、信長の死後、政権があっけなく瓦解した理由など解説する。

 マキャベリの視点で歴史を再考証した面白本。

 (さくら舎 1600円+税)

「織田信長 近代の胎動」藤田達生著

 著者は、日本における近代国家の基礎は、明治時代の約300年も前に実現した天下統一によって築かれたと説く。荘園制から石高制への全国的な税制改革の断行、対外出兵さえ可能な統一軍隊の編成、そして大名・領主、民衆の交流が本格化し、列島規模のさまざまな分野における共通の土俵が形成されることによって近代化がなしえたという。

 当時、戦国大名は分権化を推し進め、数カ国規模のブロック地域のゆるやかな統合と自立を志向したが、信長と秀吉は真逆の集権化を強制。

 信長は、幕末動乱の末に必然的に天下統一に向かったのではなく、自覚的に時代と逆方向の改革に取り組んだと著者は指摘する。なぜ信長が天下統一を目指したのか、新史料による本能寺の変の真相などにも触れながら、分権から集権に転じた劇的な歴史的転換の本質に迫る。

 (山川出版社 800円+税)

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