いま小さな本屋が面白い
「夢の猫本屋ができるまで」井上理津子著
出版不況が続く一方で、今、小さな本屋が続々と誕生している。第二の人生をもくろむ中高年のサラリーマンや、小商いを目指す若者らが、個性を打ち出す小さな本屋を開き始めているのだ。「独立系」とも呼ばれる、そんな本屋の最新事情が分かる4冊を紹介しよう。
写真集、小説、エッセー、ノンフィクションなど猫が登場する本ばかりが並ぶ「キャッツミャウブックス」は、三軒茶屋駅近くの住宅街にあり、5匹の猫が迎えてくれる。その猫たちをはべらせ、コーヒーやビールを飲みながら、本を選んだり読んだりできる約10坪の本屋だ。
井上理津子著「夢の猫本屋ができるまで」(集英社 1700円+税)は、そんなユニークな開業物語をつづった話題の本だ。
店主の安村正也氏は49歳。本屋経験もコネもゼロの普通の会社員だった。本屋の開業講座に通い、「本+猫」の形式を思いつく。当初は貸店舗を探したが、家賃リスクから「いっそ、自宅兼店舗を買ってしまおう」と方向転換。あえて住宅街を選んだのは、「わざわざ来てくれるお客」を狙う逆転の発想からだ。猫は、保護猫団体から4匹を譲り受ける。開業資金の一部をクラウドファンディングで集め、開業にこぎつけた。
初日は大勢の客が訪れたが、それは続かず、売り上げが当初目標にてんで届かない。本屋の利幅は、非常に薄いのである。新刊、古本双方の仕入れ、棚作り、客対応などに悪戦苦闘し、わずか半年で客の心をつかみ。お店を軌道に乗せた。
著者は、「すごい古書店 変な図書館」の著作もあるノンフィクションライター。きれいごとでない店主の喜怒哀楽や客の様子も描破されている上に、開業資金と月別収支も明らかにしている。小さな本屋を自分も開けるかもしれない――そんな気にさせられる一冊だ。
「日本の小さな本屋さん」和氣正幸著
「本の並ぶ空間は美しい」と思わず感嘆する写真を多数掲載した、個性的な小さな本屋の訪問記。関東から九州まで23店が紹介されている。
店内に地球儀を置いた長野市の「遊歴書房」(写真)には、世界中の国にまつわる本がぎっしり。店主は若い頃、ネパールを旅行中にけがをして入院した。病室で読んだ土地の本に感動したのを遠因に、「世界が詰まった」本屋を開店した。
元泌尿器科医院の診察室を改装した広島県尾道市の「弐拾dB」は、平日が23時から翌3時までの営業。店主が昼間、他の仕事に就いているからだが、深夜の怪しげな空間に文学からハウツー本まで並ぶ。
熊本県南阿蘇村の「ひなた文庫」は、南阿蘇鉄道「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」の駅舎の中。絵本や食、暮らしの本を「お土産に」と売っている。奇想天外な小さな本屋の様子に驚かされる。
(エクスナレッジ 1800円+税)
「本屋な日々 青春篇」石橋毅史著
著者は既刊の「『本屋』は死なない」の取材中に聞いた「情熱を捨てられずに始める小さな本屋。それが全国に千店できたら、世の中は変わる」との言葉に共感し、各地の小さな本屋を訪ねたのが本書だ。
「本は人生のおやつです!!」(大阪市)の店主は、大型書店員に読み終わった本を持ち寄ってもらう一箱古本市を開いた。「こういう本読んでる人があの書店の棚に本を並べてるのね~、と本屋がさらに楽しい場所になる」と、お客を大型店へも誘いたいからだ。「日本一狭い古本屋」とされる「ウララ」(那覇市)で、著者が「沖縄の書店史が書かれた本はないか」と尋ねると、店主はすでに倒産した版元が14年前に出した貴重な本「沖縄営業旅行記」(川上ちはる)をさっと差し出した。
店主たちの本への熱い思いがにじむエピソードが満載だ。
(トランスビュー 1800円+税)
「これからの本屋読本」内沼晋太郎著
著者は、東京・下北沢で「本屋B&B」を経営するブックコーディネーター。昔ながらの本屋は厳しいが、小さな本屋ならやっていける。経験値にもとづくそんな持論から、これからの本屋のあり方を示すのが本書だ。
年間の新刊出版点数は8万点、本屋が取り寄せ可能な流通在庫は約100万点もあるそうだ。古本なら無数。莫大な数の中からの選書は、小さな総合書店を目指すか、ある分野の専門書店や特定のターゲットに特化した本屋を目指すかのどちらかだという。他人を雇わず、サイズはできるだけ小さく。本だけでなく、飲食、雑貨、イベント、教室などと「掛け算」する方法なら利益を出せると解く。
本屋を開きたい人向きの本だが、こうした発想は他の業種にも応用できそうだ。
(NHK出版 1600円+税)