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「なんてやつだ よろず相談屋繁盛記」野口卓著

 寒さが身にこたえる季節には、こたつに入って時代小説を読むのはいかが。今回は、江戸のカウンセラー、剣客旗本、将来日本地図を作る男、料理屋一家、両国の木戸番が登場する時代小説をご紹介。どれも、心がほんのり温かくなること請け合いだ。



 江戸下町の老舗料理屋「宮戸屋」の跡取り息子・信吾は、ちょっと風変わりな個性の持ち主。将棋の腕は一流で、ひそかに護身術も身に付け、悪意をもって近づく人間も会話をするうち、悪意をそがれて友達になってしまう。しかも、動物とも会話ができるため、危険は事前に察知できるのだ。

 そんな信吾が、周囲の反対を押し切って、家督を弟に譲り、将棋道場兼よろず相談屋を開いた。将棋道場はまずまずの滑り出しだったものの、信吾が本当にやりたかった相談屋の方には客らしい客が来ないのだが……。

 2011年に「軍鶏侍」で時代小説デビューし、同作で歴史時代作家クラブ新人賞を受賞した著者による江戸商人の人間模様を描いた時代小説。どんな物事にも角を立てずに対処する主人公の不思議な話術に魅了される。

(集英社 620円+税)

「天文方・伊能忠敬(二)道標」小杉健治著

 伊能家の親戚である平山藤右衛門は、ミチの婿養子だった当主の景茂が病死して以来、伊能家の当主問題に頭を痛めてきた。ミチは自力で切り盛りしていくつもりでいたが、このままでは伊能家が危ういと考え、ミチにふさわしい男として、神保三治郎に白羽の矢を立てたのだ。

 ところが、その三治郎は奉公先で奇妙な事件に巻き込まれていた。主である成田別当が団子屋の女将を手ごめにするのを目撃して以来、川を見ていたときに何者かに後ろから押されて危うく溺れそうになったり、揚げ句の果てに盗みの疑いをかけられたりと災難続きなのだ。危険を感じた藤右衛門は、三治郎に忠告するのだが……。

 伊能忠敬の生涯を描く天文方・伊能忠敬シリーズ第2弾。本書では、伊能家の婿養子に入る前の三治郎のストーリーを追う。

(朝日新聞出版 660円+税)

「剣客旗本春秋譚武士にあらず」鳥羽亮著

 主人公は、非役の旗本・青井市之介。ある日、市之介のもとに御徒目付の佐々野彦次郎が大事があるといって、迎えに来た。聞けば、ある商家に夜盗が入ったという。当初、町人の男5人が押し入ったとみられたが、市之介は切られた男の姿を見て賊の中に武士がいるのではとの疑いを強めた。

 しかも金品を盗んでから逃げた時間は、まだ通りに人がいる時間にもかかわらず目撃情報すらない。町方が先に賊をとらえ、その一味のなかに幕臣が加わっていたとなっては一大事と考えた御目付の大草主計から、市之介は一味の中に幕臣がいたときには始末をしてくれと頼まれる。果たして、夜盗の正体とは……。

 大人気の「剣客旗本春秋譚シリーズ」の第2弾。ついに夜盗を追い詰めた市之介が、剣の名手と対決するシーンも読みどころ。

(実業之日本社 593円+税)

「廻船料理なには屋 涙をふいて」倉阪鬼一郎著

 物語の舞台は、江戸八丁堀の廻船料理屋「なには屋」。菱垣廻船で運ぶ味噌や醤油などを使って、大坂の味と江戸の味のいいところを取り入れた店として評判だ。

 もともとは大坂の浪花屋吉兵衛が「一軒のなには屋を、いずれは千軒のなには屋に」を夢に描いて、江戸への進出を狙っていたのだが、下見途中に菱垣廻船の難破があり、いまだに行方がわからないまま、次男の次平とその妹のおさやが江戸の店を切り盛りしていたのだった。

 そんな折、おさやの縁談がまとまり、大坂の「浪花屋」を守っていた長男・太平も江戸にやってきたのだが、そこで思わぬ展開が待っていた……。

 廻船料理なには屋シリーズ「帆を上げて」「荒波越えて」に続く第3弾。家族で営む料理店で巻き起こる人間模様が温かく描かれている。

(徳間書店 690円+税)

「消せぬ宿命 大江戸木戸番始末(九)」喜安幸夫著

 人に言えない過去を抱えつつ、町の平安のために奔走する両国米沢町の木戸番・杢之助には、最近気になることがあった。それは、5年前から同じ町内に住む印判師の治平。存在感のない人物なのだが、誰にも正体を知られず暮らしたい杢之助にとって、自分と同類に思えたからだ。

 さらに年末のかき入れ時に、ふすまや障子の表装を生業にする経師屋一家も引っ越してきて、こちらも夜逃げではないかと気が気ではない。それとなく探りをいれてみるのだが……。

 全33巻にも及ぶ「大江戸番太郎事件帳」の続編「大江戸木戸番始末シリーズ」の第9弾。住民に対して感じた違和感を糸口に、彼らの過去や思惑にたどり着くストーリー。わが身の安全のためといいつつ、世のため人のために働く主人公の優しさが伝わってくる。

(光文社 620円+税)

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