なんだかヘン、でも面白い生き物本
「トリノトリビア」川上和人監修・執筆、マツダユカ/マンガ
宇宙人から見た地球は「虫だらけ」だそうだが、わが星は人間だけで構成されているのではない。肉眼で見えない微生物から大型哺乳類まで、まさに生き物だらけなのだ。彼らの魅力と威力を改めて知るための、ちょっと変わった本5冊を紹介する。
スズメ、シジュウカラ、ムクドリ、ヒヨドリ、カラスにカモにハト……都会でも見かける野鳥たちの、案外ずぶとい生きざまをユーモラスに教えてくれる。見開きごとにカラーの4コママンガを掲載し、子供から大人まで楽しめる。シンプルかつ軽妙洒脱な文章で、よく見かける野鳥たちに親近感が湧くこと間違いなし。
ただし、しぐさに「カワイイ~」と萌えるのは人間の思い込み。実際には威嚇や攻撃、惰性またはただの習性ということも。
小声でごにょごにょつぶやくスズメもいれば、ちゅうちゅうと水を飲むハトもいる。シジュウカラが小首をかしげるのは警戒の証拠など、見た目とは裏腹な野鳥たち。別種と繁殖してしまうカモもいれば、毎年相手を代えるオシドリも。野鳥はなかなかに生々しくて、業が深いことがわかる。 (西東社 1200円+税)
「カラス先生のはじめてのいきもの観察」松原始著
日本では五本の指に入るカラス研究者の著者。彼がいかにして動物行動学者となりえたのかがわかる一冊。
少年期~思春期を過ごした裏山は、まさに生き物ワンダーランド。キイチゴやアケビのなるやぶ、フナやザリガニを釣った池を通り、シカやイノシシ、イタチやタヌキと遭遇する裏山を探検し、雑木林ではマムシも踏む。生物部に所属していた高校では、校内に迷い込んだコウモリを捕獲し、噛まれたことも。
都会に育つと、虫や野生動物と触れる経験がなく、敵視したり排除する方向へいく。利便性と快適さを追求し、自然環境を破壊してしまう人間の罪は相当重い。著者の故郷も40年で激変。ツバメもトンボも飛ばず、カエルも鳴かない地となった故郷に、自分が帰るべきところを半分くらい失ったようだと嘆く。
(太田出版 1500円+税)
「動物はいつから眠るようになったのか?」大島靖美著
動物は眠るのが当たり前と思っていないだろうか。
考えてみたら、睡眠とは動物にとっていったいどんな状況なのか、果たして線虫のような下等動物も睡眠を取っているのか。その素朴な疑問を進化系統を遡りながら論じたのが本書である。
睡眠の機能としては、神経系、筋肉・内臓の休息と機能回復である。
哺乳類や鳥類は、レム睡眠とノンレム睡眠のパターンも時間も異なる。体重が重いほど睡眠時間が少ない、安全性が高い場所で眠る動物の方がより長く眠るなどの傾向がある。
さらに爬虫類や魚類、昆虫、線虫の睡眠まで考察を進めていく。節足動物甲殻類には睡眠時特有の脳波の出現が確認され、軟体動物には、レム睡眠時の急速な眼球運動が見られるという。
睡眠の起源を遡ると、進化の過程もおのずと見えてくる。
(技術評論社 1680円+税)
「どうぶつのおちんちん学」浅利昌男著
平仮名で書かれていると子供向けの本かと思ってしまうが、れっきとした獣医学の専門書である。獣医師の著者がありとあらゆる動物のおちんちんについて、詳しく解説する。血管や神経などの構造を解説する解剖学、勃起や射精、交尾に至るまでの生理学と教科書的だが、知らないことも実に多い。
そもそもおちんちんも「線維弾性型」と「筋海綿体型」があり、前者は長さと一定の硬さで勝負、後者は膨張で勝負という。
牛や豚、羊、ヤギは前者、犬、猫、馬、そして人間は後者だそう。
第3章の雑学編では、体長の7割の長さのおちんちんを持つテンレック、実は巨根のカメ、常にフル勃起状態のワニ、二股に分かれたおちんちんのフクロモモンガに、2本持ちのヘビやトカゲなどを紹介。多種多様のおちんちんに思いを馳せよう。
(緑書房 1600円+税)
「虫から死亡推定時刻はわかるのか?法昆虫学の話」三枝聖著
身元不明の死体や、判別不能な腐乱死体を解剖する際、呼び出されるのが法昆虫学者だ。向き合うのは死体ではなく、主にハエの幼虫・ウジ。種類や成長段階から死後経過時間を推定することができる。「死亡推定時刻」まではわからず、あくまで死後経過時間の推定だが、事件解決につながる事例も少なくない。
法医解剖現場の描写は生々しい。圧倒的・暴力的な臭気の中、解剖台から逃走したウジを片っ端から捕獲し、熱湯に漬け(殺虫剤を使うと正確性が失われる)、種別・サイズ別・成長段階別に採集。3Kといわれるが、不幸な死を遂げた人の声を聴く大切な職務だ。
死体に蚕食する昆虫は第一発見者であり、目撃者であり、優秀な捜査官にもなり得ると記している。法昆虫学の有用性を知らしめる稀有な一冊。
(築地書館 1500円+税)