好奇心全開 おもしろ科学読本特集
「人工知能はなぜ椅子に座れないのか」松田雄馬著
どんな偉大な科学者も、原点は「なぜ?」という好奇心だったはず。そういう「なぜ?」に答えてくれる、おもしろ科学本を紹介しよう。子供の頃にこの本に出合っていたら人生変わっていたのに、と歯ぎしりしても、責任は持ちません。
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進化して、今や人間に取って代わりそうな勢いのAIだが、意外な弱点がある。人間は体を持っているからこそ、「疲れたから座る」という目的を自分でつくり出すことができる。ところが、プログラムだけで動く機械は体を持たないため、目的を与えられない限り自分でつくり出すことはできない。人間は「岩」を「椅子」と認識して椅子代わりに用いることもできる。それはその人間の「疲れたから座る」という物語の中に「岩」が位置付けられたからだ。「弱い人工知能」ではまだ「自らの人生を生きる」ことはできず、現状ではそれは人間や生物にのみ許された行為である。
「人工生命」の研究が進んでいる今、「テクノロジー」がどの地点にいるかをわかりやすく解説してくれる、必読の一冊。
(新潮社 1400円+税)
「信長もビックリ!?科学でツッコむ日本の歴史」平林純著
本能寺の変で信長が殺されたのを知ったとき、秀吉は岡山の備中高松城攻めの真っ最中だった。急きょ毛利輝元と和解して、秀吉軍は京都に向かってひた走る。これが伝説の「中国大返し」。
1週間で200キロを走り抜け、翌日には光秀を討ってあだ討ちを果たした。だが、1週間で200キロだと時速3キロで、ゆっくり歩くくらいの速さでしかない。むしろ凄いのは、2万人の兵士が200キロを移動するための食料を用意できたことだ。1人1日おにぎり約10個、計200万個必要になる。これを2万人が長距離移動するコース脇に用意したのが石田三成。「中国大返し」は三成の名プレーに支えられていたのだ。
他に、那須与一が扇の的を射抜いた話は可能かなど、日本史のギモンを科学で説明する。
(集英社 1000円+税)
「すごく科学的」リック・エドワーズ&マイケル・ブルックス著 藤崎百合訳
タイムトラベルを描いた映画の傑作のひとつが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。高校生のマーティがタイムマシンに乗って1955年にタイムスリップし、両親のロマンスの邪魔をして危うく自分の存在を消しそうになるというストーリーだ。自分を消すというパラドックスは可能か? マーティの母がマーティに恋をして父と結婚する可能性が低くなると、未来から持ってきた写真の中のマーティ兄弟の姿が薄くなる。だが、例えば、誰かが過去に行って自分の祖父を殺したとすると、結果としてその人物は生まれないことになり、祖父を殺すことはできない。これが「時間順序保護」である。
他に「猿の惑星」「マトリックス」など、10本のSF映画を科学の視点から解説。
(草思社 1800円+税)
「僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない」ジョージ・チャム&ダニエル・ホワイトソン著 水谷淳訳
宇宙でわれわれはひとりぼっちではない。太陽系には地球の他にも火星など生命の材料がありそうな星はいくつかある。そもそも生命が生まれたのは本当に地球上だったのか。どこか別の場所で生まれ、隕石に乗って地球にやってきたという説がある。
例えば巨大な小惑星などが惑星と衝突して、その衝撃によって惑星の破片が宇宙空間に放り出される。その破片が別の惑星に落ちることもあり、実際にそうして火星からやってきたと思われる石が地球で見つかっている。そういう惑星の破片に微生物などが乗っていて、別の惑星に落ちるということもあり得るのだ。
宇宙についての知識がいっぱい詰まっていて、「へぇ~」を連発してしまいそうな本。
(ダイヤモンド社 1800円+税)
「空を飛べるのはなぜか」秋本俊二著
空を飛ぶことを夢見たひとりがルネサンス時代の天才科学者、レオナルド・ダビンチ。
彼は「鳥が飛べるのは羽でボートのオールのように漕いでいるから」と考えた。トビなどの動きを観察し、骨格や羽を動かす筋肉の構造を調べ、人類初の空飛ぶ機械「オーニソプター」を設計した。だが、ダビンチは羽ばたき運動だけに注目して、鳥が広げた翼に風を受けて「揚力」をつくり出していることに目を向けなかったため、失敗。
イギリスのジョージ・ケイリー卿は子供の頃、斜め上方向から風を受けて鳥が上昇飛行するのを見て、鳥の羽に生じる力を上に押し上げる力(揚力)と、前に推し進める力(推力)に分離するという着想を得た。
他に、タンポポの綿毛や熱気球など「飛ぶもの」の仕組みを説明。
(SBクリエイティブ 1000円+税)