「一発屋芸人の不本意な日常」山田ルイ53世著
クイズ番組の「問題VTR」の撮影の仕事が入った。
その現場で、かつて子供に人気の戦隊もので「レッド」を演じた若手俳優と再会した。そのドラマで山田は彼らを温かく見守る「博士」だったのだが、歳月は「レッド」を「刑事」に、「博士」を「死体」に変えた。
山田は目を閉じて、成長した「刑事」役の俳優の芝居をただ黙って聞いていた。
「死体」にはセリフがなかったからだ。中2の時、ひきこもりになった山田は、窓の隙間から成長した同級生が通るのを見ていた。
今では窓でなくテレビで、売れっ子の芸人を見ている。再び「向こう側」へ行くのはなかなか難しい。
一発屋扱いとなったお笑い芸人のペーソスと、シニカルなつぶやきが込められたエッセー集。
(朝日新聞出版 1300円+税)