富樫倫太郎(作家)

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2月×日 夜型の生活が辛くなってきたので、朝型の生活に切り替えた。早いときには5時過ぎに起きる。早起きの利点は、静かな環境で好きなことができることだ。

 コーヒーを一杯飲めば頭がすっきりして仕事もはかどる。以前は、1日分の仕事をこなすのに半日くらいかけていたが、朝型になったら3時間で仕事が終わる。どれだけ効率の悪い生活をしていたんだ……という話だが。

 ついでに食生活も改善し、肉や炭水化物を控え、野菜や果物を多く食べるように心懸けている。乳製品もほとんど食べない。体重が落ちて体が軽くなり、風邪も引かなくなった。早起きと節食は間違いなく体にいいと悟る。中高年にお勧めである。

 生活習慣を切り替えたことで、自由に使える時間が増えた。読書量も増えた。

 中江有里著「残りものには、過去がある」(新潮社 1500円+税)は、早朝の静かな時間に毎日ひとつずつ短編を読んだ。切れ味鋭い、名品揃いである。どこにでもいそうな平凡な人たちの肖像を丁寧に丹念に掘り下げていく。

 さらりと読めるが深い余韻が残るのは、作品の隅々にまで丹精に目が行き届いているからであろう。よほど時間をかけてじっくり書いたのだろうなあ、と同業者は感心するしかない。その場に最もふさわしい言葉を正確に選びながら、登場人物たちの心の襞を1枚1枚めくっていく描写は怖いほどだ。すごい作家だと思う。

 最近、最も驚いたのはタコである。サイ・モンゴメリー著「愛しのオクトパス」(亜紀書房 2200円)。高度な学習能力があり、喜怒哀楽があり、人の顔をきちんと識別する。人懐こく、好きな相手には愛想を振りまくので、ペットに最適……嘘だろう、と驚いた。でも、本当です。

 知性的で、五感の能力は人間をはるかに上回る。唯一の弱点は寿命が短いことで、3年くらいしか生きることができない。タコの寿命が30年で、知識を子孫に継承する力があれば、たぶん、地球の支配者はタコであり、人間はタコに仕える従僕になるしかない。

 すごいなあ。たくさん本を読むと、こういう新鮮な驚きに出合えるのが嬉しい。

【連載】週間読書日記

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