AIと人類
「予測マシンの世紀」アジェイ・アグラワルほか著 小坂恵理訳
AI(人工知能)は社会に幸福をもたらすのか、それとも取り返しのつかない災いか。
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AIの威力は人間の手のおよばない猛スピードで機械学習を重ね、休みなく深層学習を続けてデータを集め、人間の能力を上回ることにある。
そのデータの蓄積が発揮されるのが「これから起こること」を見抜く力、つまり予測だ。人間の脳は記憶を利用して先を見抜く力で自然を凌駕したが、AIはその結果生まれた人工物なのだ。
カナダの経営学者らによる本書は、予測の根拠がデータであることをもとに「データは(現代の)石油」だという。だが、データはただため込めばいいわけではない。人気トップのアイドル歌手を検索した結果はグーグルでも弱小検索エンジンでも同じ。だが、珍しい検索ワードだと結果は大きく違う。誰もが利用するグーグルは、その検索頻度の大きさをもとに、目立たないが役立つサイトを見つける力が強い。
AI時代は強者と弱者の格差の広がりやすい時代でもあるのだ。
(早川書房 1700円+税)
「AIに勝てるのは哲学だけだ」小川仁志著
AIをめぐっては楽観論と悲観論が「鋭く対立」しているという著者は、NHKのEテレでもおなじみの哲学者。前者はAIが人間の脳を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)が来ても、人間はAIを飼いならせるとみる。後者はAIが人間を支配するわけではないとしてもAIに仕事を奪われ、強力なライバルになることは避けられないと考える。
しかし、AIには人間のような曖昧な思考ができない。哲学こそが人間がAIに勝てる能力であり、「考える力」をつける勉強法・思考法と説く。
(祥伝社 800円+税)
「『AI資本主義』は人類を救えるか」中谷巌著
モノづくりが主役の「産業資本主義」から金融が主役の「金融資本主義」へ。しかしいまや「AI資本主義」へと向かっているのではないか、という著者はトレンドに敏感な経済学者。これまでも流行語になりかけた時点ですぐ啓蒙書を出版し、いわば知のマーケッターとして世間にアピールしてきた。
本書では人類文明の歴史全体を視野に置いた大がかりな議論を展開。「ホモ・デウス」などで話題のユヴァル・ノア・ハラリの議論を解説しながら、AI資本主義の下では人工文明を抑制する「外部」がなくなると批判する。
(NHK出版 820円+税)