「ヒルビリー・エレジー」J.D.ヴァンス著 関根光宏・山田文訳光文社
ドナルド・トランプ氏の米大統領選挙勝利の背景に、同書に登場する「ヒルビリー」(田舎者)の存在があったと分析された。アメリカの繁栄から取り残されたラストベルト(さびついた工業地帯)の白人の生態を示す同書では、普段我々が日本のメディアで接する大都会のリッチな生活とはかけ離れた人生が描かれている。
2年前の書だが、最近本を読まない周囲の人が続々と読んでいるので私も読んだ。冒頭の内容は広く語られているだけに、私がここで書くのはロースクールの生活についてだ。昨今メディアが注目するのが眞子さまの婚約内定者・小室圭さんだが、伝え聞かれる情報からはロースクールの実態がよく分からない。
「超絶優秀だから奨学金がもらえた」「勉強熱心」らしいが、実際はどうなのか。本書は超名門・イエール大学のロースクールに入ることにより、著者がヒルビリー(田舎者)においては最高の勝ち組にのし上がるまでを描く。前段の悲惨な人生を知ったうえで、ロースクールパートに入るとより楽しめる。
著者はイエールで最も高い奨学金をもらえた。もしや小室さんのように80ページの論文を書き、熱意を示したのか? と思うが実態は全く異なる。
〈利子がつくとわかっていても、20万ドルの借金をするのはやむをえないと考えていた。ところが、イェールの奨学金制度は私の想像を超えていた。1年目の学費は奨学金でほとんどカバーできる。私の成績や人柄が評価されたからではなく、たんに私が、この学校で誰よりも貧しい学生のひとりだったからだ〉
図書館で勉強を深夜までしたことなども描かれるし、同大の教授は学生としゃべるのが好きなため、研究室を訪れよ、といったことも書かれている。これで小室さんが「教授としゃべっている」といった報道の背景も分かる。
本書の著者は同大の教授から人生最高のアドバイスをもらえたと書いている。
〈この書記官のポジションは、人間関係を壊しかねない仕事よ。正直言ってウシャとの関係を優先して、自分に合うキャリアを追及すべきだと思うわ〉
ウシャとは恋人のことだが、結局著者は彼女と結婚する。ロースクールで出会う人々が、いや人はいかに誰と出会うかが重要か、がこれでもか、とばかりに力説される。蛇足ながら1週間150ドルのホテルがあると知れて良かった。そして小室さんの生活も少しだけ想像できる。
★★★(選者・中川淳一郎)