佐川光晴(作家)
5月×日 1日から元号が令和になった。64年も続いた昭和が裕仁天皇の崩御により唐突に終わり、新元号が「平成」と発表された時の慌ただしさを思うと隔世の感がある。
当時私は23歳、2ヵ月後の3月末に大学を卒業するのと同時に結婚したため、平成の30年間と4ヵ月は、そのまま妻との結婚生活と重なる。
片山杜秀・佐藤優共著「平成史」(小学館1500円+税)は論客2人の対話による平成回顧。ただし文中の年月日は西暦で表記されている。1992年10月、新天皇夫妻は中国を初訪問し、翌93年4月には沖縄を訪問する。
「昭和天皇にとっては生々しすぎた(中略)戦後問題に向き合う実践の始まりです」との片山氏の指摘に首肯する。
平成は、毎年のように天変地異と大事件が起きた不穏な時代だったが、天皇=軍国主義というイメージを払拭した平成の天皇夫妻の功績はいくら強調しても足りない。
5月×日 小学校の教員である妻が多忙を極めているため、私は主夫とし23歳と15歳になる息子を育ててきた。何の不満もないけれど。娘がいたらと思うことはある。
「平成遺産」(淡交社 1600円+税)はライターの武田砂鉄、漫画家の田房永子、写真家の川島小鳥、詩人の最果タヒなど8名の表現者による平成を送るオムニバス集。女性寄稿者の論考の方が読み応えがあるのは、残念ながら平成の世でも女性たちが圧迫されてきたことの証だろう。
5月×日 昨年10月から12月末まで、私は本紙で小説「昭和40年男」を連載した。現在、9月の刊行に向けて加筆に取り組んでいる。タイトルは同名の雑誌から借りた。隔月刊で最新の第55号は「俺たちのお母さん」。私自身、昭和40年生まれなので、毎号楽しませてもらっている。
「恵まれた時代に生まれたなあ」というのが実感で、それを引け目に思うことなく、残りの半生も頑張ります。