「鬼憑き十兵衛」大塚已愛著
寛永12年10月。細川忠利の剣術指南役である松山主水は、光円寺で療養中のところを元加藤家家臣の浪人たちによって暗殺された。
彼らは「秘密裏に殺せ」というある者の命を受け、主水のみならず寺にいたすべての者を抹殺するつもりだったが、そこに獣のように身軽な少年が現れ、血まみれになりながらも暗殺者たちをすべて返り討ちにしてしまう。
少年の名は、十兵衛。主水のもとで剣の修行をしていたが、主水が暗殺される前日に実は自分が主水の息子であるという事実を知ったばかりだった。父を殺されたことに逆上し思わず反撃した十兵衛は、その直後に大悲と名乗る鬼に取り憑かれ、そこから父の暗殺を命じた者への復讐へと走り始めるのだが……。
著者のデビュー作となる本書は、日本ファンタジーノベル大賞2018の受賞作品「勿怪の憑」を改題し、加筆・修正を加えたもの。
鬼に憑かれた主人公が、亡き父の無念を晴らすために復讐の日々を送るなか、この世のものとは思えない怪しげなものとの遭遇を経て、成長を遂げていく。新人ながらも、緊迫感あふれる見事な描写で読者を引き込む手腕は見事。
(新潮社 1500円+税)