安藤祐介(作家)
5月×日 平成の終わりと令和の始まりをまたぐ大型連休を経て、朱野帰子さんの「わたし、定時で帰ります。ハイパー」(新潮社 1400円)を読了。同作は1年前に第1弾が刊行されて大きな反響を呼び、私もこの「週間読書日記」で紹介させて頂いた。今回、朱野さんが満を持して放ったシリーズ第2弾は、折しも働き方改革関連法の順次施行と時期を同じくしての刊行。4月下旬からはテレビドラマの放送も始まり「わた定」の愛称で多くの読者や視聴者の話題をさらっている。
多忙なWEB業界の会社で定時に帰る主義を掲げて動く主人公・東山結衣。第2弾ではサブマネージャーとなり、仕事の量も責任も増した。社長の号令のもと、会社はホワイト化を目指し働き方改革を進めているが、やはり今回も「定時に帰らせない」数々の試練が結衣を待ち受ける。個性的な新人たちに振り回され、パワハラ、セクハラの渦巻くクライアント企業と対峙する結衣を応援しながら読み進めた。
ドラマも毎週楽しみに視聴している。放送日の度に、ネットでは「わた定」の登場人物や物語を巡って熱い共感や議論が飛び交う。「わた定」がなぜこれほど多くの人々の心を動かすのか。それは「定時」という明確な境界線をモチーフにしながら、結衣や登場人物たちの働き方のみならず、生き方そのものをも描き出しているからだと私は思う。働き方改革は、生き方の改革でもあると気付かされるのだ。
5月×日 私事だが、3月末に「逃げ出せなかった君へ」(KADOKAWA 1600円)が刊行され、皆様から多くの感想を頂いている。新卒でブラック企業に入社してしまった3人の若者と、彼らに縁ある人たちを描いた短編連作集である。「わた定」とは対照的な設定の物語だが「何のために働くのか」というテーマにおいては相通ずるものを感じる。働くために生きているのではなく、よりよく生きるために働いているのだと私は思う。
5月×日 宮部みゆきさんの「火車」(新潮社 990円)を読了。平成初期刊行の不朽の名作ミステリー。会社の描写に平成30余年の時代の移ろいを感じる。