中島恵(ジャーナリスト)
5月×日 講演で京都に行ってきた。駅を降りてびっくり。平日だというのに、タクシー乗り場に100メートル以上と思われるほど多くの観光客が並んでいるではないか。運転手さんによると、タクシー乗り場の数が減ったという。これでは観光する前に疲れ果ててしまうだろうと、他人事ながら心配になった。
アレックス・カー、清野由美著「観光亡国論 」(中央公論新社 820円+税)には、まさしく、今の日本が、このままでは「観光立国」どころか「観光亡国」になってしまうという著者らの危機感や問題意識が描かれていて、とても考えさせられる。私自身も中国人のインバウンド事情をよく取材しているが、中国人富裕層の場合、とくに興味を持っているのは、東京や大阪ではなく地方都市だ。それなのに、本書にあるようなオーバーキャパシティー、マナー、交通、宿泊などで課題が山積していて、なかなか解決されない。このまま本当に東京五輪を迎えられるのだろうか。窮地に立たされるのはいつも現場の人間であり、早急な対策が求められるのではと感じた。
5月×日 話題の映画「キングダム」を見た。日本の漫画が原作だが、舞台は中国春秋戦国時代。出演者も日本人だが、これほど壮大な映画が日本で制作されたことに驚かされた。そんな矢先、斉藤洋著「呉書 三国志」(講談社 1600円+税)を手に取った。こちらは後漢の末期、各地で群雄が割拠するご存じの物語だが、本書は呉にスポットを当てたもの。児童書(小学校高学年向け)だが、「三国志」関係の重厚な書籍にいつも挫折してきた自分には、わかりやすくてちょうどいい。7月に東京国立博物館で開催される「三国志」の特別展を見に行く予定なので、格好の予習になった。
5月×日 出張で大阪に向かう新幹線で、黒木亮著「世界をこの目で」(KADOKAWA 840円+税)を読む。エッセー集は、夢中になって電車を乗り過ごす心配が少ないし、短時間で読むのに最適なので、いつもカバンに入れている。