「家康謀殺」伊東潤著
戦国時代、情報そのものを雑説、正しい情報を真説、偽情報を偽説、敵を惑わすための情報を惑説と呼んでいた。
この時代、熾烈な情報戦が繰り広げられ、その成果が勝敗を大きく左右した。本書は、そうした情報戦の光と闇を暴いた短編集。
最初の舞台は桶狭間の戦い。沓掛城城主の娘婿・佐川景吉は、今川義元の命により九之坪城の簗田広正を今川方に寝返らせるべく迫るが、広正は情報を巧みに操り景吉の裏をかく。恨みに思った景吉は、広正に復讐すべく遠大な情報戦を仕掛けていく。(「雑説扱い難く候」)
続く「上意に候」は、豊臣秀吉の甥で、2代目関白の秀次が熱海で湯治中の場面から始まる。そこへ徳川家康の重臣・酒井忠次が訪れ、秀次の関白を返上せよという。さらに、次期関白に小早川秀秋がなるとの噂も飛び込んできて、周囲はにわかにきな臭くなる……。
その他、文禄・慶長の役を背景に、根来衆の鉄砲打ち兄弟がたどる数奇な運命を活写した「秀吉の刺客」、大坂夏の陣前夜に計画された家康の暗殺が現代の防諜戦さながらの駆け引きで展開する表題作など、計6編いずれも情報に翻弄される男たちの悲劇が描かれる。
(KADOKAWA 1700円+税)