「池上彰の世界の見方イギリスとEU 揺れる連合王国」池上彰著/小学館/2019年
本書を読むとブレグジット(イギリスのEU[欧州連合]離脱)の経緯がよくわかる。
政府が緊縮財政を実施し、生活保護を削減した。そのため生活保護受給者の一部が仕事に就くようになった。しかし、非熟練労働は中東欧からの移民で占められており、就労の機会を得られない低所得者の怒りが移民に向かった。これを好機ととらえたのがポピュリスト政治家だった。
<彼らの不満の受け皿となり、急激に勢力を拡大したのが、イギリス独立党(UKIP UK Independence Party)でした。EU脱退を主張するポピュリズム政党です。ポピュリズムというのは、政治に関して理性的な判断をするエリートや知的層に対して、情緒や感情に流されやすい大衆層に迎合し、煽動する政治活動のことです。イギリス独立党の支持者の多くは白人労働者階級の人たちで、次第に党勢を拡大していきます。2014年の欧州議会選挙で、既存の政党を押さえて第一党となり、イギリスに与えられた73議席中24議席を獲得して衝撃を与えました>
独立党は国民投票でEUからの離脱をあおったにもかかわらず、国民投票の結果、離脱が多数派になったら、政権を担うことから逃げ出してしまった。独立党の目的は党勢拡大で、実際にブレグジットが起きるとは思っていなかったのだ。
池上彰氏はイギリスとアイルランドの複雑な歴史をわかりやすく解き明かす。不買(売)運動を指すボイコットがアイルランド起源であることを筆者は初めて知った。
<1880年、イギリス人の農場支配人ボイコット大尉が、小作人のアイルランド人を追放しようとしたのに対して、小作人は大尉との交渉を一切断ち、召使いは家を離れ、商人は物を売らないという抵抗をしました。ボイコット一家は餓死しそうなほど弱ってしまって結局屈服しました。このアイルランド人たちの抵抗運動がボイコットと呼ばれるようになり、広がっていったのです>
現在もボイコットは有効な抵抗戦術だ。
ジョンソン首相の下でイギリスのEU離脱は実現するであろうが、今後、アイルランドで混乱が生じる可能性がある。イギリス情勢は当面安定しないと思う。 ★★★(選者・佐藤優)