次世代新技術のビジネス本特集
「スマートフォンは誰を豊かにしたのか」小林大州介著
次世代のビジネスモデルを模索している人は多い。そこで、アリババ、スマホ、TikTok、デジタル通貨などこれからのビジネスのヒントになりそうな新技術の本をご紹介!
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今では誰もが口にするイノベーション理論をいち早く説いたのは、オーストリア出身の経済学者・シュンペーター。彼が1912年に著した「経済発展の理論」には、スティーブ・ジョブズのような企業者と呼ばれる者やスマホのような新商品の出現が予想されていた。本書は、この理論を解説しながら現代人の生活を根本から変化させたスマホを例にとって、従来の市場の秩序をかき乱すICTパラダイムがもたらした新しいスタイルとその利潤の行方を追う。
慣行的な商売から利潤を得た従来の企業とは違い、ルーティンを脱却して新商品を開発した企業者は、市場での独占的地位を得て人々の生活を変え、巨万の富を得た。
本書ではそこで生じる格差の構造を解きつつ、その先に来る資本主義の変化についても言及している。
(現代書館 2200円+税)
「決定版 リブラ」木内登英著
昨年6月、フェイスブックが公表した新デジタル通貨リブラの発行計画は、賛否両論を巻き起こした。仮想通貨の信奉者や新興国の低所得者には福音と思えるこの計画も、プラットフォーマーの規制強化に取り組む欧米や中央銀行にとっては、マイナス面を警戒する状況にある。
本書は、リブラ計画の概要を紹介しつつ、金融業界への影響、国家との間で起こる通貨主権を巡る争いなどについて、独自路線を歩む中国の動きにも言及しながら考察していく。
今後考えられるシナリオは、デジタル通貨発行企業と銀行が共存するか、補完関係になるか、前者が後者に取って代わるかの3つだという。一度始まったデジタル通貨の流れをせき止めることは難しい。
今後起こるビジネス界の激変に興味のある人はぜひ一読を。
(東洋経済新報社 1600円+税)
「アリババ 世界最強のスマートビジネス」ミン・ゾン著 土方奈美訳
アリババと聞くと中国版のアマゾンかと思いがちだが、本書を読めばそれが誤解であることがわかる。アリババは従来の小売業とは違い、仕入れもしなければ在庫も持たず、配送もすべて外部のサービスプロバイダーが行う。その役割の本質は、最先端テクノロジーを駆使して、ビジネスモデルを根本から変革することだ。
上司が1年に5回代わっていなければ本当の変化とはいえないというアリババの組織論、経営論を紹介し、従来とは一線を画すアリババの新規性に言及。さらに今後個人が生き残るための方策として、①未来のビジョンの明確化②価値を生むための創造性③今は人類史上最大の個人の可能性を発揮できる時代であること、の3つを把握しつつ、チャンスをつかめと激励する。ピンチを好機に変えたい人におすすめだ。
(文藝春秋 2100円+税)
「TikTok 最強のSNSは中国から生まれる」黄未来著
「フェイスブックもツイッターもインスタグラムも使えず中国本土の人は可哀想」と思っていたという著者は、帰国した際に中国のネット界が進化している事実を知って衝撃を受けた。外国から遮断されている代わりに、中国では独自のイノベーションが次々と生まれていたからだ。特にスマホの登場によって中国はそれ以前とは劇的に違う世界になった。
本書のテーマは、①ショートムービー・アプリTikTok(Douyin)の魅力の秘密②それを生み出した企業と中国のスタートアップの最新状況③動画革命の本質の3つ。
中国発のサービスを知れば今後のビジネスのヒントが先取りできると著者はいう。
旅行コンテンツとショートムービーの掛け合わせが消費行動に結びつくなど、本書に挙げられている具体例も参考になりそうだ。
(ダイヤモンド社 1500円+税)
「ネクストシリコンバレー」平戸慎太郎・繁田奈歩・矢野圭一郎著
グーグル、アップル、フェイスブックなど名だたる企業が本社を構えるシリコンバレーは、イノベーションの聖地ともいわれて久しい。しかしトランプ政権の政策によって優秀な外国人エンジニアのビザ取得が難しくなったことから、近年シリコンバレー離れが始まった。今までのように米国ばかりを注視していると日本は今後のビジネスの機会を損失するのではないか。そんな問題意識から次のシリコンバレーともいえる技術革新が生まれる街を紹介しているのがこの本だ。
現在人材や資本が次々と集まり、テックハブとなりうるイスラエル、インド、ドイツの3カ国で始まっているスタートアップ事情を紹介しつつ、今後そうした国々と協業する上でのポイントを解説。日本が次のチャンスをつかむためのヒントを紹介している。
(日経BP 1800円+税)