「体育会系 日本を蝕む病」サンドラ・ヘフェリン著 光文社新書/900円+税
日本社会がいかに異常かを日独ハーフで両国を知る著者の視点で書いたんだろうなぁ~、どんだけオレ、叩かれちゃうんだろう。なんて思う人もいるかと思うが、まさにそういう本である。著者は頭にハチマキを巻いて頑張るような「分かりやすい体育会系」は少なくなっているものの、根性論に基づいた考え方はまだ残っており、それが問題だと指摘する。
「甘ったれるな」「周りに迷惑がかからないように頑張れ」「立場を自覚しろ」といった風潮は残っており、これぞ体育会的だと指摘する。
学校の組み体操批判に始まり、「茶髪証明書」の異常さなど学校教育段階からの体育会的思考への疑義を呈し、働き方や日本に蔓延する空気が世界的に異質なことなどを示していく。
〈今の若い人は結婚しないとか、少子化がどうのという批判も考えてみたらおかしな話です。「国の人口が少ないから子どもを産もう」と考える人は、戦時中またはよほど右寄りでないとそういないでしょうし、「独身でいる」ことも「結婚する」ことも「子を持つ」ことも「子を持たない」ことも、その決断は自分自身の状況や幸せを考えた上でのものであって「誰かのため」ではないはずです〉
他にも海外実習生に対する日本企業の残酷な仕打ちや、バカンスに対する欧州と日本の考え方の違い、東日本大震災時の「食べて応援」はドイツでは理解できないことなどを挙げる。著者いわく、とある日本人が福島の米をドイツ人に送ったところ、捨てられてしまったのだという。アフリカの某国でアメーバ赤痢が流行していたとした場合、その村の子どもたちが作ったお菓子を送られて食べるか? ということと同様だと述べる。
最終的にはあくまでも「一人でやる体育会系」は好きだと著者は述べる。ドイツで中学時代を過ごしていた著者は「夏休みは勉強はしないもの」というドイツ流考え方はせず、ラテン語の勉強を前もってやっていたら新学期にはクラスで1番になっていたというのだ。
本書は頭の固い体育会的オッサンが読むと「この生意気な女め!」といった感覚を抱き、「なんでもかんでも欧米がいいというならドイツに帰れ!」と言いたくなることだろう。一方、日々の日本の状況を「なんか変なんだよな。コロナウイルスがここまでヤバいのに満員電車でみんな通勤しているっておかしくないか?」と思う人には痛快な本だといえよう。
★★★(選者・中川淳一郎)