「菜の花工房の書籍修復家」日野祐希著
このところ、電子書籍の伸長に比して、紙の本の需要は年々鈍っている。それでも紙の本の歴史は長く、そう簡単になくなりはしないだろう。現に、何百年も前の本が現存していて貴重な資料となっている。そのときに大切なのが本の修復である。古い書籍の劣化や破損を修復する技術者が書籍修復家で、ルリユール、コンサバターともいわれる。
本書は、書籍修復という仕事に魅せられた少女が、その夢を実現しようと奮闘する物語。
【あらすじ】小学校1年生の夏休み、三峰菜月は祖父母が誕生日プレゼントに贈ってくれた大切な絵本を壊してしまった。幼いながらに思いついたのは図書館を頼ること。司書さんに直してほしいと頼むが、できないと断られてしまう。途方に暮れて泣きじゃくっているところに老人が現れる。1週間後、絵本は元通りになって戻ってきた。あのおじいさんはきっと魔法使いに違いない――。
それから10年、高校3年生の菜月は進路で悩んでいた。母のすすめる大学に行くのが無難なのだが、本当にこのままでいいのか。そんなときに幼い頃に出会った魔法使いのことを思い出す。よし、自分もあのおじいさんのように本を直して未来に残す仕事をやろう。そう思い立った菜月は高名な書籍修復家による書籍修復の体験講座を受けることに。その講師、豊崎俊彦こそ、あのときの魔法使いだった。
菜月は弟子入りを志願するが、俊彦はかたくなに拒否。それでも菜月の熱意に負け、ある課題を課してそれに合格すればと条件をつける。そこから菜月はがむしゃらに修業に励むのだが……。
【読みどころ】和本の修復技術の細部が丁寧に描かれ、改めて本の修復という仕事の貴重さが伝わってくる。 <石>
(宝島社740円+税)