「県庁おもてなし課」有川浩著
お役所仕事とは、前例にとらわれ、形式主義に流れ、不親切で非能率的な仕事ぶりを指す。その本家たるお役所で何か新しいことをやろうとすれば、いくつもの壁にぶち当たり、なかなか前へ進めない。高知出身の著者が、自らの体験をもとに、どうすればお役所仕事から脱却して、地元に観光客を呼ぶことができるかと奮闘する県庁職員の姿を描いたのが本書。
【あらすじ】高知県庁観光部に新設されたおもてなし課は、おもてなしの心で県の観光をもり立てようというもの。課で一番若手の掛水史貴は、手始めに地元出身の人気作家・吉門喬介に観光特使就任を依頼するが、吉門から掛水らのお役所ルールに縛られた発想の貧弱さと効率の悪さなどを手厳しく指摘される。
吉門が協力に当たって出した条件は、外部スタッフとして民間の若い女性を起用すること、そして、かつて観光の目玉として高知の動物園にパンダを呼ぶという「パンダ誘致論」を唱え、そのあまりの先鋭ぶりに県庁から追い出された元職員を捜し出して協力を得ることの2つ。第1の条件にぴったりの多紀という強い味方を得た掛水は、伝説のパンダ誘致論者・清遠の取り込みにも成功する。吉門、清遠という強力な味方を得て掛水・多紀の新鋭コンビは斬新なアイデアを繰り出していくが、目の前にお役所の縦割り行政という大きな壁が立ちはだかる。
さらに吉門と清遠との意外な関係も絡みながら、おもてなし課は県全体をレジャーランド化するという未踏の領域に踏みだしていく――。
【読みどころ】本書で出されたアイデアの数々は、当の高知県庁のみならず、他の地方でも意識改革の良きモデルになったという。地方活性化の先駆けとなった観光エンターテインメント。<石>
(KADOKAWA705円+税)