「定年消滅時代をどう生きるか」中原圭介著 講談社現代新書/2019年
評者は今年1月で還暦(60歳)になった。これからの60代、70代の生活に備えるための必読書だ。中原圭介氏は、今後の状況についてこう分析する。
<政府は65歳までの雇用を企業に義務づけている高年齢者雇用安定法を改正し、当面は70歳までの就業機会が確保される社会づくりを目指す方針です。(中略)/政府の最終的な目標は75歳定年が当たり前の社会に持っていくことでしょうが、私はおそらく2030年代に入る前には、75歳までの雇用を「努力義務」とする考えが示されることになると見ています(中略)その後は70歳の時と同じように、75歳までの雇用の「努力義務」から「義務」への流れとなるのではないでしょうか。/厚生労働省はおよそ10年後のスケジュールの環境整備として、年金の受給開始年齢を75歳に遅らせることを検討し始めているといいます>
生きていくためにはカネが必要だ。年金と貯金が十分でなければ、働いて稼ぐほかない。死ぬまで働くことを余儀なくされる状況が近未来に生じる。
2018年に倒産した国内企業の平均寿命は24年だ。今後、20年を割り込むと予測される。一生の間、一つの会社に働き続けるという終身雇用制度は崩れかけている。
すべてのビジネスパーソンが転職に備えなくてはならない時代になる。そこで重要なのは、自分の頭で考える習慣をつけることだ。
<アメリカでは頭を「使う人」と「使わない人」の経済格差が苛烈な勢いで拡大してきています。日本では未だそのような傾向は顕在化していませんが、おそらく10年後か20年後には、日本も今のアメリカ並みになっているかもしれません。自分で物事を考えない人は、中流層にとどまることさえ難しくなっていくでしょう>と中原氏は強調する。
現在でも、データをPCやクラウドに保存していると、数字や固有名詞を記憶しなくなる。今後、AI(人工知能)が発展し、現在、事務職の人々が考えながら進めている仕事をAIに委せるようになると、人間の思考力が弱くなる。哲学書や数学書など思考力を強化する本を読む習慣をつけることが、今後の生き残るために必要だ。 ★★★(選者・佐藤優) (2020年3月7日脱稿)