どれから読む?最新警察ミステリー特集
「焦眉」今野敏著
今回の特集は、固定ファンの多い警察ミステリー本。社会問題やそこに生きる人々の葛藤にリアルに迫る展開はいつも期待を裏切らない。検察と警察の攻防戦、バイオビジネス、刑務所から脱走した少年、山で発見された遺体、のぞき見から事件に巻き込まれた男の5つのミステリーをご紹介!
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捜査1課の樋口顕の元に、少年事件課の氏家から連絡が入るところから物語は始まる。選挙違反の摘発などを担当する2課の選挙係に異動することになったというのだ。氏家は近々行われる総選挙対策の一環として選挙係に抜擢されたものの、野党議員だけをマークするやり方を見て樋口に不安をぶつける。
そんな折、世田谷区の住宅街で中年男性の刺殺事件が勃発。さっそく警視庁は特捜本部を設置したが、そこに東京地検特捜部の灰谷卓也が現れる。灰谷は、東京5区で当選したばかりの野党の衆議院議員・秋葉康一を政治資金規正法違反で内偵中で、被害者がその秋葉と大学時代から親しかったというのだが……。
警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ最新刊。検察と警察の攻防戦の中、ただ真相に迫る樋口の実直さが痛快。
(幻冬舎 1600円+税)
「神域(上・下)」真山仁著
萎縮した脳に人工万能幹細胞「フェニックス7」を移植して、アルツハイマー病を克服する。マウスの脳を使って人工的にアルツハイマー病の脳の状態を作り出した実験で、脳細胞の再生を確認した研究者の篠塚幹と秋吉鋭一は、実用化に向けて研究を進めていた。ところが、副作用のリスクへの不安が障壁になり、治験への許可も下りず足踏みする日々が続く。
そんな中、宮城県で認知症の高齢者が相次いで行方不明になるという事件が発生。宮城中央署刑事課の警部補・楠木耕太郎は、行方不明になってから2カ月後に用水路で死体で発見された老女の死因に疑問を抱き、解剖を依頼するのだが……。
「ハゲタカ」シリーズで人気の著者による再生医療がテーマの社会派ミステリー。奇麗事ではないバイオビジネスのリアルに迫る。
(毎日新聞出版 各1500円+税)
「正体」染井為人著
ある日、神戸拘置所に収監されていた少年死刑囚・鏑木慶一が脱走する。18歳で埼玉県熊谷市に住む一家3人を殺害した罪で死刑判決を受け、1年半収監された末の脱走だった。
その後、鏑木は生きるために名を変え、職を変えてさまざまな場を転々とする。ある時は東京オリンピック施設の工事現場に、ある時はスキー場の旅館の住み込みバイトとして、さらに人手不足の介護施設やパン工場などにも潜り込んだ。それぞれの場所で親しい人間関係も生まれるものの、その正体を疑われては姿を消すことを繰り返していく。果たして彼の本当の正体とは……。
2017年に「悪い夏」で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した著者の最新作。脱獄から488日に及ぶ逃亡生活を追いかけつつ、事件の真相と少年の真意に近づいていく。
(光文社 1900円+税)
「山岳捜査」笹本稜平著
主人公は、長野県警山岳遭難隊に所属する桑崎祐二。ある日、鹿島槍北壁から下山する際に、明らかに他殺が疑われる女性の死体を発見した。
ところがヘリコプターで回収する直前に雪崩が発生し、雪煙の中に死体は消えてしまった。
死体が消えたとあっては捜査本部の立ち上げに難色を示されたものの、死体を発見する直前に不審な3人組を見かけたことや、3月の気温の中でも凍結状態の死体だったことなど、桑崎にとって気になる死体だった。桑崎は、遭難救助隊の浜村と捜査1課の富坂刑事と共に真相を探り始めるのだが……。
「時の渚」で第18回サントリーミステリー大賞と読者賞を受賞し、山岳小説の分野でも定評のある著者による最新作。
雄大な北アルプスを舞台に展開する過酷な捜査がスリリングだ。
(小学館 1700円+税)
「監禁探偵」我孫子武丸著
山根亮太は、マンションで一人暮らしをする会社員。向かいのマンションに、スタイルのいい若い女がいることに気づき、その無防備な姿を眺めるようになった。最初はちらりと視線を送っていたが、仕事の重圧から逃げるように会社を辞めて以来、窓辺に三脚と一眼レフカメラを設置して女を観察することに夢中になり、ある夜、干しっぱなしの下着を盗むことを思いつく。
ところが寝ているはずの彼女は死体になっていた。慌てて部屋に戻った亮太だが、そこには成り行きで自ら監禁されているアカネという少女がいた。(第1話「山根亮太」)
のぞき見と少女監禁という人に言えない行為を続ける主人公が、監禁した少女のヒントで事件の謎を解くという異色ミステリー。別の角度からアカネを描いた話も2話収録されている。
(実業之日本社 1600円+税)