【危機の社会】「危機」という漢字には「機会」の意味も

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「危機の時代」ジム・ロジャーズ著

 新型コロナウイルス禍の悪影響はますます拡大。消費も地価も下落。危機に満ちた社会はどうなるのか。



 伝説の投資家として日本でも大人気の著者。講演会やセミナーがコロナ禍のためリモートになっても、すぐに申し込みがいっぱいになるという。本書はコロナ禍が一段落したかといわれたタイミングで出版されたが、楽観論にはくみしない。

 現在の世界情勢は第2次大戦直前に似ているという説に著者も賛同。各国軒並みの財政赤字からくる貿易戦争。景気も悪化。おまけに今はコロナ禍まである。リーマンを超える危機も現実にありそうなのだ。あとは戦争に突入する懸念も捨てきれない。

 しかしそこから先がロジャーズ節。なぜか「日本語の『危機』という漢字は」という。「『危険』と『機会』の両方を意味する。つまりこの危機はチャンスでもある」と。要はどんなときにも前向きに、ただし冷静さを忘れるなという常識論なのだが、著者の口から出ると不思議に説得力が生じるように感じる。そこがカリスマのカリスマたるゆえんだろう。

 古代ギリシャ哲学の話からアラバマの田舎町の少年時代。エリートの集うエール大学時代、そして現在はシンガポールに暮らしてリモートで世界に向けた講演活動に余念がない。そんな成功をどうやったら手に入れられるのか。苦しいときこそ常識論が心にしみることがわかる。

(日経BP 1600円+税)

「働き方5・0」落合陽一著

 コロナ禍で社会の大前提が変わったと本書。インターネットのデジタル情報があふれ、「人工物と自然物が垣根なく存在する環境」。コロナ禍でそれが誰の目にも明らかになった。文明そのものが新しい段階を迎えているという。

 たとえばウーバーイーツが従来の出前と違うのは、注文を受けたシステムが近くにいる配達員を自動的に検出し、仕事を命じるところ。つまりシステムが「上司」だ。機械に使われることを嫌う時代ではないのだ。それゆえ過去の常識は通じない。自動翻訳の精度が急速に上がる時代に外国語学習にどれほどの意味があるのか。子供にプログラミングを学ばせる親も多いが、プログラミングは論理的な思考の産物を実行するための手段。問題は論理的思考のほうなのだ。

 威勢のいい著者はちかごろテレビでよく見る「メディアアーティスト」。筑波大准教授でもある。

(小学館 820円+税)

「ドキュメント 強権の経済政策」軽部謙介著

 かつて日本の経済を牛耳っていたのは大蔵省、つまり現在の財務省だ。しかし安倍政権では経産省出身の今井尚哉補佐官が重用され、首相みずから財務省嫌いを隠さない。政治主導の名のもとに官邸1強が恒常化するとアベノミクスの前には財務省もなす術なし。だが、いまコロナ禍の打撃をふくめ安倍政権は末期症状だ。日本経済は感染症と政権の失政と二重の責め苦を負った危機のさなかにあるのだ。
 本書は時事通信の元ベテラン記者による「官僚たちのアベノミクス」シリーズの続編。ベテラン記者ならではのていねいな関係者取材をもとに、第2次安倍政権発足直後の13年からの歩みをたどり、あれほど首相がこだわっていた「物価上昇率2%」に、いまや本人自身が「関心を失っているように見える」までを描く。これは「変節というのか、進化というのか」と問うのである。
(岩波書店 860円+税)

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