戦争の夏
「沖縄戦75年 戦禍を生き延びてきた人々」琉球新報社社会部編著
沖縄で、広島で、日本中で、戦争の記憶を受け継ぐ季節が来た。
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今年もまた夏が来た。しかし戦争の記憶を受け継ぐのに本当に熱心なのは広島、長崎、そして沖縄だろう。
本書は地元紙が昨年10月から今年の5月まで掲載した4つの連載を収録。最初の「10・10空襲から75年」は戦争末期の1944(昭和19)年10月10日の米軍による大規模な沖縄空襲に焦点をあてる。
戦時下の沖縄といえば悲惨な上陸戦があまりに広く知られるが、その前にすでに米軍は本土と同じように大空襲を挙行していた。旧那覇市は5次にわたる波状攻撃によって住宅地をふくめた全域の9割が失われたという。城下町の首里とは違って「庶民の町」として外来者を多様に受け入れてきた那覇。当時、市立商業学校の生徒だった古老は現在88歳。「神国」と教えられてきた日本が本当に勝てるのかと内心失望の思いだったという。
見慣れた景色が空襲で一面真っ赤に染まる。そんな思い出は東京でも富山でも沖縄でも同じなのだ。本書を読むと沖縄の戦禍はまさに日本全体につながる普遍的なものだとの思いを新たにする。また、だからこそ風化させずに世代を超えて継承しなければならないのだ。
(高文研 1800円+税)
「特攻 最後の証言」岩井忠正、岩井忠熊著
昭和18年の秋、慶応大生から学徒出陣で海軍に入隊した兄。当時、すでに日本は負けると確信していたにもかかわらず対潜水艦学校に入れられ、人間魚雷「回天」の乗組員となる。2歳年下の弟は京都帝大の学生からやはり学徒出陣で海軍へ。最末期に急造された特攻艇「震洋」の部隊に配属された。熊本出身の2人は兄弟ともに無謀な特攻に駆り出されたのだ。
本書はいま100歳と98歳を迎えた兄弟が語り合う愚かな戦争の現実。実は兄弟は陸軍少将の九男と十男。祖父も陸軍の軍人という一家だが、だからこそ逆に時流に遠慮せず批判的な目を養う環境にあったともいえよう。
新型コロナウイルス禍のもとで急遽、「後世の若者たちに」と企画された本書。その志を見よ。
(河出書房新社 1200円+税)
「ガダルカナル悲劇の指揮官」NHKスペシャル取材班著
大戦中の軍部がいかに蒙昧で近視眼的な見方に陥っていたかは、かなり知られている。わけてもガダルカナルの戦闘は悲惨な全滅を喫した戦闘だが、それを経験した兵士たちの実相は必ずしも明らかになってない。生き延びた兵士が少なく、おまけにいまや生存者も大半が亡くなっている。
ところが米側に当時の未発見史料が眠っているとの情報を得たのがNHKスペシャルの取材班。ここで一気にプロジェクトが立ち上がり、改めてこの無謀な戦闘の顛末が大型番組になり、本書の出版となった。
「ガ島」死守の無謀な戦闘で致命的な作戦ミスをおかした大本営陸海軍の参謀たち。立案者の誰も責任を問われず、のうのうと生き残ったばかりか最後まで栄達をとげ、戦後もしたたかに生き残った。陸軍参謀・服部卓四郎は戦後もGHQの諜報部門にみずから接近。対ソ冷戦を利用して日本の再軍備のために暗躍した。
海軍参謀・富岡定俊は「敗残兵になったら死んでしまえというのは当たり前」と言い放ちつつも少将にまで昇進。戦後は防衛庁の顧問として悠々と影響力を保った。そして陸軍参謀・辻政信は戦後は衆院議員にまでなった……。
これほど愚かしい過去を改めて国民は知るべきだろう。
(NHK出版 1800円+税)