ダイエー 中内功「革の靴に雨水を含ませ、かみしめた」
ダイエーを創業した中内功氏は生涯に2度しか自身の名前で本を出版していない。
1969年に出した「わが安売り哲学」はベストセラーとなり、世間の話題をさらった。そんな時期に、「財界のご意見番」として知られる経営評論家の三鬼陽之助氏と会食をした。東京・新宿の小料理屋の2階だった。
三鬼氏はウイスキーを飲みながら、いきなり怒鳴った。
「バカヤロー、経営者になるのか、物書きになるのか、どっちだ」
「経営者が本を書くと自分の手足を縛る。書いた内容にこだわれば経営判断にも曇りがでる」
三鬼氏の怒りに、ベストセラーを絶版とした。以後、日本経済新聞に「私の履歴書」を掲載(2000年)するまで、著作はない。その連載を中心にまとめた「流通革命は終わらない」(日経BPM)。内容は壮絶だ。
戦争中、激戦地フィリピンに出兵し、「靴の革に雨水を含ませ、かみしめたこともあった」。
1995年の阪神・淡路大震災のときには、3日後に被災地へ入った。真っ暗だった町に衝撃を受け、「とにかく店に明かりをともせ」と指示した。ダイエーの被害総額は400億円。上場以来初の最終赤字に転落した。あとがきで中内氏はこう書いている。
「『こんな世の中に誰がした』『親が悪い』『先生が悪い』『社会が悪い』『だから俺の人生は真っ暗だ』。こんな言い訳をしても仕方がない」