読書の秋はこれで決まり!最新ミステリー特集

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「鏡影劇場」逢坂剛著

 複雑に張り巡らされた伏線の数々に翻弄される、傑作ミステリーの最新作5冊をご紹介。本来なら行楽シーズン真っただ中であるが、コロナ禍の今年は、自宅でゆっくりと読書の秋と決め込んでみては?



 ギタリストの倉石学が、マドリード留学中に古本屋で手に入れた古い楽譜。触れれば崩れてしまいそうなその紙の束の裏面は、いかにも時代がかった癖のある文字でびっしりと埋め尽くされていた。

 倉石の妻である麻里奈は、友人である古閑沙帆に文書の解読を依頼する。その崩れた書き文字の中には、頻繁に3文字のアルファベットが認められた。その文字とは「ETA」。モーツァルトに心酔していたといわれる19世紀の文豪・ホフマンを指しているとみられ、妻であるミーシャに宛てた報告書のようだった。ドイツ文学者である本間鋭太の力も借りながら解読を進めていくうちに、ホフマンの謎に満ちた人生だけでなく、現代の日本のある一族にまでつながる因縁が浮かび上がり……。

 200年前と今が交錯し、幾重にも張り巡らされた謎に翻弄される。結末部分は何と袋とじ仕様となっており、最後まで出口が見えない長編ビブリオミステリーだ。

(新潮社 3000円+税)

「もう、聞こえない」誉田哲也著

 警視庁本部の刑事部捜査一課に所属する武脇元は、高井戸警察署への応援を命じられ、難解な事件の取り調べに悪戦苦闘していた。

「男の人に怪我をさせてしまった」という女性の通報を受け、現場に向かう高井戸署の当番係員。しかし現着してみると被害男性はすでに死亡しており、通報した雪実が傷害した旨の説明をしたため、傷害致死容疑で通常逮捕する。よくある事件であり、これで一件落着かと思われたが、雪実は泣くばかりで被害者との関係すら答えない。武脇がじっくり話を聞く中で、ようやく彼女の口から出た言葉が「女の人の声が聞こえるんです」。「危ない」や「気を付けて」といった女の声が、部屋にいても電車に乗っていても聞こえてくるというのだ……。武脇は要精神鑑定案件かと考えるが、被害者の男や雪実の身辺を調べるうち、失踪や殺人など不可解な未解決事件に行き当たる。

 伏線に次ぐ伏線が織りなす警察ミステリーだ。

(幻冬舎 1600円+税)

「隣はシリアルキラー」中山七里著

 ぎりっ、ぎりっ。どんっ。ざあああっ、ざあああっ。神足友哉は、深夜になると隣室から聞こえてくる音に悩まされていた。

 ここは安普請の社員寮で、隣室でトイレやシャワーを使うと盛大に音漏れがする。しかし、水音がひとしきり続いた後、別の音が聞こえるようになった。耳慣れた生活環境音とは別の、何か乱暴で粗雑な音だ。

 隣人とは顔を合わせたことはないが、集合ポストには<徐浩然>と表示があり、外国人技能実習生のようだった。それにしても隣室から響く音は生々しい光景を連想させる。牛刀か何かで大きな生き物を解体し、血を洗い流しているような……。

 やがて、周辺で未解決のバラバラ殺人事件が起こっていたことを知る神足。隣人が犯人なのではという疑惑が徐々に現実味を帯びていく。壁一枚隔てた隣室では何が行われていたのか。

 リアルな恐怖感に襲われるサスペンスフルなミステリーだ。

 (集英社 1600円+税)

「網内人」陳浩基著 玉田誠訳

 香港を舞台に展開する社会派ミステリー。

 両親を早くに亡くし、8歳下の妹シウマンを育てるために中学を出てすぐに働き始めたアイ。シウマンの成長は、アイの唯一の支えだった。しかし、中学生になったシウマンは、飛び降り自殺を図ってしまう。

 かつてシウマンは、電車内で痴漢に遭ったことがあった。しかし、取り押さえられた男はでっちあげだと主張。裁判沙汰にまで発展し、マスコミはシウマンを「少女A」として面白おかしく書き立てた。

 結局、男は有罪となるが、その後ネット掲示板に「14歳のクソ女にハメられて俺の叔父さんが刑務所に入れられた」という書き込みがなされ、シウマンは徐々に追い詰められていった。

 アイは、ハイテク専門の探偵アニエに協力を依頼し、妹を死に追いやった真相の追求に乗り出す。経済格差やいじめ、ネットで横行する目に見えない暴力など、香港が内包する問題が赤裸々に描かれていく。

(文藝春秋 2300円+税)

「半沢直樹 アルルカンと道化師」池井戸潤著

 先日最終回を迎えたドラマも大ヒットの半沢直樹シリーズ。6年ぶりとなる待望の新作は、頭取への道を上り詰めていく半沢のその後……ではなく、第1作の「オレたちバブル入行組」の前日譚。半沢直樹の原点が描かれている。舞台は東京中央銀行の大阪西支店。融資課長である半沢直樹の元に、とある買収案件が持ち掛けられる。買収されようとしているのは、100年近く続く老舗の美術系出版社である仙波工藝社。看板雑誌の「ベル・エポック」を除いては、軒並み赤字が続いている。

 イタリア喜劇に登場する、ずる賢いアルルカンの絵が飾られた仙波工藝社の社長室に通される半沢と、東京中央銀行大阪営業本部調査役の伴野。買収話に不快感を示す社長の仙波だったが、伴野は意に介さず買収話を進め続け、半沢が止める事態に。やがて半沢は、強引な買収話の背後に潜む秘密の存在にたどり着く。

 今回も「倍返し」なるか?

(講談社 1600円+税)

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