おもしろ全史本特集
「哲学と宗教全史」出口治明著
無限の宇宙から足元の砂一粒まで、この世に存在する有形無形のすべてに歴史がある。それぞれの分野の歴史全体をもれなく記したのが全史だ。一つの分野の歴史を知ることは、世界全体を理解するための端緒となる。すべてはつながっているからだ。この世にはありとあらゆる分野の「全史本」があるが、今週はその中からお薦めの5冊を紹介する。
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「世界はどうしてできたのか、また世界は何でできているのか?」「人間はどこから来てどこへ行くのか、何のために生きているのか?」。古来、人間が抱き続けるこの素朴な問いに答えてきたのが、宗教であり哲学だった。
神という概念が生まれたのは、狩猟採集生活から農耕牧畜生活へと転換した約1万2000年前だという。そして紀元前1000年ごろ、古代ペルシャで人類初の世界宗教ゾロアスター教が誕生する。一方、紀元前5世紀前後に有産階級が生まれたことで知識人や芸術家が登場。哲学的思考が広まり、哲学の祖タレスが万物の根源は水であると唱える。以後、先人たちがどのように世界を理解し、生きる意味を考えてきたのかを時代を追って読み解く。
日本人が最も苦手な宗教と哲学を体系的に解説したベストセラー。
(ダイヤモンド社 2400円+税)
「株式会社の世界史」平川克美著
文明の発展と経済増大に多大な貢献を果たしてきた株式会社というシステムを論じたテキスト。
産業革命以後の資本主義の発展は、株式会社の存在なくては不可能であり、株式会社が近代を牽引してきたことは疑いようがない。しかし、2008年のリーマン・ショックや最近のコロナ禍が、この世界を支えているはずの経済システムがそれほど盤石でも安定的なものでもない「病」を内在した存在であることを示した。
株式会社というものを人間は何ゆえに必要としてきたのか。資金調達と生産のシステムである株式会社が誕生する以前の揺籃期にまで遡り、法人資本主義全盛までの500年に及ぶその歴史をたどりながら、株式会社を支えた思想について考察。今後も経済発展の原動力としての役割を果たしていけるのかを問う。
(東洋経済新報社 1800円+税)
「漫画サピエンス全史」ユヴァル・ノア・ハラリ原案・脚本ほか ダニエル・カザナヴ漫画 安原和見訳
かつて地球上には、ホモサピエンスの他にも何種類ものヒトがいた。なぜホモサピエンスだけが生き残ったのか。その壮大な謎から始まる人類の歴史を描いた世界的ベストセラーのコミック版。
約250万年前、東アフリカで出現したヒトは、5万年前まで少なくとも6種類いたという。
道具や火を使うことを覚え、食物連鎖の頂点に立つまでの200万年の間、ヒトは常に絶滅寸前の弱い動物だった。だが、7万年前にホモサピエンスが急速に広がり、他のヒトを駆逐する。その最大の要因は、ホモサピエンスの認知能力に起こった革命だった。コミュニケーション能力と大勢で共同作業をする能力、つまり協力することがうまくなったのだという。
学問の領域を横断しながら人類の歴史をたどる目からウロコ本。
(河出書房新社 1900円+税)
「IT全史」中野明著
1794年に発明された「腕木通信」に始まる情報技術の歴史を詳述。
腕木通信の発祥地であるフランスは当時、革命のさなかで、国境を守る軍隊と中央政府による緊密な情報交換が必要になり、新たな通信手段が編み出された。それが建物の屋上に設置された可動式の腕木の指す位置によって特定の信号を送る腕木通信だ。10キロごとに設置された装置に常駐する通信手によってバケツリレー式に情報を離れた場所に送り届けるというもので、5800キロもの通信網がつくり上げられた。
なぜ腕木通信が情報技術の始まりに位置付けられるのか。それは現在のインターネットにも通じるメッセージの符号化に成功したからだという。以後、電信、電話、無線、ラジオ、テレビ、コンピューター、インターネットまで情報技術の進展を俯瞰する。
(祥伝社 1000円+税)
「入門フリーメイスン全史」片桐三郎著
組織の閉鎖性ゆえ、日本では誤解と偏見の目で見られがちな秘密結社フリーメイスン。日本の組織の元グランド・マスターが、その真実の姿を解説した入門書。
その祖は、中世イギリス諸島の「石工団体」。彼らは少なくとも12世紀から各地の石造建築に携わり、14世紀にはフリーメイスンと呼ばれるようになった。
17世紀になると、スコットランドで貴族や知識人などの一般人が団体に入会。最初は名誉職的な立場だったが次第に活動が活発になり、200年をかけて、石工団体から現在の友愛団体へと変貌を遂げたという。各地の本拠・ロッジ(集会所)に伝わる古史料などを読み解きながらその歴史を振り返る。一方で、明治期に始まる日本の組織の歴史も概観し、誤解や偏見が生まれた背景まで明かす。
(文芸社 1000円+税)