「使命と魂のリミット」東野圭吾著
裁判+手術というドラマ的な要素が多いためか、テレビドラマなどで医療ミスがテーマになる場合が多い。実際に年間どのくらいの医療ミスの訴訟があるかというと、近年の統計では、2004年の1110件をピークに、現在は800件前後で推移している。そのうち半数程度が和解で解決しており、裁判になるのは2割弱だという。
本書は、この問題を正面から取り上げた医療ミステリーだ。
【あらすじ】氷室夕紀は帝都大学医学部を卒業後、同大学の研修プログラムを受けている。内科、外科などを経て、彼女の最終目標である心臓血管外科に籍を置いている。というのも夕紀が中学3年生のとき、父の健介が大動脈瘤の手術がうまくいかずに亡くなり、お父さんみたいな人を助けると決めたからだ。
指導医の西園は、心臓外科の第一線で何十年も活躍してきた斯界の権威。実は、父の手術をしたのが西園であり、おまけに現在は母の百合恵と付き合っているらしい。複雑な思いを抱えながらも、夕紀は心臓外科医になるために西園のもとで修業を続けていた。
そんなある日、大学病院宛てに、医療ミスを公表しなければ病院を破壊するとの脅迫状が届く。病院側は医療ミスがあったことを強く否定するが、犯人はトイレに発煙筒を仕掛け、本気であることを示してきた。西園は大手自動車メーカーの経営者が大動脈瘤の手術を予定しており、その助手として夕紀を指名する。脅迫事件で騒然とする中、西園たちは手術を決行するが、手術中に犯人により電源を落とされてしまう……。
【読みどころ】複雑な人間関係を軸に幾重にも絡まる事件を最後見事にまとめ上げていく手腕は著者ならでは。 <石>
(KADOKAWA 720円+税)