「禁じられたメス」久間十義著

公開日: 更新日:

 病気腎移植(修復腎移植)とは、がんや肝炎などの疾患のあるドナーの腎臓から病巣を取り除き、それを移植する治療技術。従来病巣を切除した腎臓は捨てられていたが、修復して移植することができれば、腎移植が必要な人にとっての福音となる。当初倫理的に問題があるなどとされていたが、現在は先進医療として認められている。

 本書はこの腎移植をめぐる問題を扱っている。

【あらすじ】柿沼東子は有朋堂総合病院の泌尿器科の医師。夫との間に1歳半になる娘がいる。

 育児と仕事の両立は難しく日々ストレスを抱えており、魔が差したのか、東子は研修医時代の指導医と関係を持ってしまった。それを知った夫から離婚を言い渡され、娘の親権も失う。さらに女手ひとつで東子を育ててくれた母が亡くなる。

 東子は失意のまま宮城県牡鹿半島にある陸前会伊達湊病院で働くことに。同病院では、天才外科医の陸奥をリーダーとする腎移植チームが高度な技術を駆使して高い評価を得ていた。東子はそこで病気腎移植という画期的な技術があることを知り、自分もそれを身につけるべく努力の日々を送っていた。

 そこへ陸奥らが臓器売買に関わっていたのではないかとの嫌疑がかかる。以前から病気腎移植に懸念を抱いていた学会や保健省はここぞとばかりに陸奥らに激しいバッシングを行う。この移植技術の大きな可能性を信じる東子たちは懸命に安全性と有用性を訴えていく。

 ようやく認められるようになった直後、東日本大震災が東子たちの病院を襲う……。

【読みどころ】実際に起きた病気腎移植に関するスキャンダルを下敷きに、運命に翻弄されながらもたくましく生きるひとりの女性医師の姿が鮮烈に描かれる。<石>

(新潮社 840円+税)

【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  2. 2

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  3. 3

    サザン桑田佳祐の食道がん闘病秘話と今も語り継がれる「いとしのユウコ」伝説

  4. 4

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

  5. 5

    NiziU再始動の最大戦略は「ビジュ変」…大幅バージョンアップの“逆輸入”和製K-POPで韓国ブレークなるか?

  1. 6

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  2. 7

    下半身醜聞の川﨑春花に新展開! 突然の復帰発表に《メジャー予選会出場への打算》と痛烈パンチ

  3. 8

    モー娘。「裏アカ」内紛劇でアイドルビジネスの限界露呈か…デジタルネイティブ世代を管理する難しさ

  4. 9

    伸び悩む巨人若手の尻に火をつける“劇薬”の効能…秋広優人は「停滞」、浅野翔吾は「元気なし」

  5. 10

    小松菜奈&見上愛「区別がつかない説」についに終止符!2人の違いは鼻ピアスだった