「サイレント・ブレス 看取りのカルテ」南杏子著

公開日: 更新日:

 新型コロナウイルスの“第3波”では重症者数が過去最多を更新し、死者の数も増大している。それに伴い全国の医療現場が逼迫していると伝えられる。コロナ禍が恐ろしいのは、医療従事者が常に感染の危険にさらされ、脳梗塞や心筋梗塞といった通常の救急医療に支障を来していることだ。コロナ報道があふれている中、他のさまざまな病気で苦しんでいる人や日夜死に直面している医療者が大勢いる。それに思いを馳せるべく医療を扱った作品を取り上げてみたい。

【あらすじ】新宿医科大学総合診療科に入局して10年の水戸倫子は、直属の上司、大河内教授から在宅で最期を迎える患者専門の訪問クリニックへの異動を命じられた。倫子には患者の診療に時間をかけすぎ、要領が悪いとの評判があり、最初は大学病院には不要との烙印を押されたのかと思ったが、現実に終末期の患者たちと向き合う中で考えが一変する。

 死ぬために家に戻ったのだから余計な治療は必要ないと言い張る、末期の乳がんをわずらう45歳の女性。自力での歩行・呼吸が困難で通院から在宅医療に切り替えたが、好奇心旺盛で明るい22歳の筋ジストロフィー患者。倫子が研修医時代の病院長で、最期まで治療を尽くすことで有名ながん治療の権威の名誉教授は自らが膵臓がんになったときに、あろうことか一切の治療を拒否する。その真意は? そして、長いこと寝たきりになっている自分の父親……。

【読みどころ】倫子は、それらの患者たちに接することで、苦しみに耐える延命よりも、穏やかで安らぎに満ちた死を守る医療が求められていることを知る。

 自ら終末期医療に携わる現役医師が、終末期医療のあり方について、さまざまな角度から問いかけた感動作。 <石>

(幻冬舎 650円+税)

【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  2. 2

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  3. 3

    【独自】亀山千広BSフジ社長“台風夜のお色気ホムパ疑惑” 「帰宅指示」を出しながら自分はハイヤーで…

  4. 4

    ドジャース佐々木朗希 160キロ封印で苦肉の「ごまかし投球」…球速と制球は両立できず

  5. 5

    ヤクルト村上宗隆 復帰初戦で故障再発は“人災”か…「あれ」が誘発させた可能性

  1. 6

    明暗分けたメジャーの最新評価…ヤクルト村上宗隆「暴落」、巨人岡本和真は「うなぎ上り」

  2. 7

    中森明菜「奇跡」とも称された復活ステージまでの心技体 「初心を忘れるな」恩師の教え今も…

  3. 8

    フジの朝ワイド「サン!シャイン」8時14分開始の奇策も…テレ朝「モーニングショー」に一蹴され大惨敗

  4. 9

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  5. 10

    セレブママの心をくすぐる幼稚舎の“おしゃれパワー” 早実初等部とアクセスや環境は大差ナシ