「庭」小山田浩子著
久しぶりに帰省して、寝苦しい一夜を過ごして私は、祖父に起こされる。時刻は午前3時。夕飯に姿を見せなかった祖父は、最近は寝たきりでボケも始まったという母の話から信じられないほどしっかりしていた。促されるまま着替えて家の外に出ると、祖父は私を自転車の後ろに乗せて走り出した。「うらぎゅう」に行くという。前日、1日2便しかないバスで実家に向かう途中、乗客と運転手も「うらぎゅう」を話題にしていたが、私には何のことか分からなかった。
両親に離婚の報告をして、届け書に署名をもらうための帰郷だった。夕食の席でふと思いついて尋ねると、両親はうらぎゅうのことを知っているようだった。
平凡な日常にふと顔をのぞかせる不条理を描く不思議な読後感の短編集。
(新潮社 590円+税)