「泣くな研修医」中山祐次郎著
研修医というと、過酷な労働環境の代名詞ともされるほど過重労働が課される職種とされている。近年は働き方改革が叫ばれ、その働き方はかなり改善してきているというが、1980年生まれの著者の研修医時代がモデルとされているであろう本書の主人公の働き方は半端ではない。それでも遮二無二患者と向き合っていくその姿は心を揺さぶられる。
【あらすじ】雨野隆治は鹿児島の大学で医師国家試験に受かったばかりの研修医。東京・下町の総合病院で研修医の1年目をスタートさせた。
勤務について以来、ほとんど家に帰らず病院で寝泊まりするという忙しい生活を送っていたが、医者といってもまだタマゴ。経験もなく、研修医が単独で行ってもいい処置や処方も限られている。それに比べて外科の直属の上司である後期研修医の佐藤玲はすべてをそつなくこなす。交通事故に遭い、救急で運ばれてきた5歳の少年の対処も担当医とともに見事に処置した。それに引き換え初めて手術に立ち会った隆治は、いたいけな少年の姿を見て立ちくらみを起こしてしまう。あと4年すれば自分も佐藤のようになれるのかと不安を覚える。
一方で、生活保護を受けている末期がん患者に対して、認知症と94歳という高齢を理由に病院が継続治療を断念したことに隆治は納得できずに苦悶する。また自分と同い年の患者を初めてみとったときは、何もできなかった自分の無力さに打ちのめされる……。
【読みどころ】すべてが初めて尽くしの隆治が医者として成長していく姿が描かれるが、なんとも人間くさい隆治が魅力的だ。福島県の原発近くの無人となった病院の院長に勇躍志願した著者の若き日の姿をそこに感じることができる。 <石>
(幻冬舎 630円+税)