出口なしニッポン
「アンダークラス2030」橋本健二著
緊急事態宣言で、またも“強制自粛”状態の東京、大阪、名古屋。果たしてニッポンに出口はあるのか。
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格差の背景には階級問題がある。しかも日本の場合、そこに少子高齢化がからむ。
本書によれば、いまから10年後の2030年は「日本社会の大きな曲がり角」。バブル期に大学を卒業しても会社に就職せず、当時はかっこいい自由業のようなイメージもあった「フリーター」という名の非正規労働者になった元若者たち。彼らが、いよいよ65歳を迎えるのが10年後なのだ。しかもそれに続くのは「就職氷河期世代」。10年後には彼らが40代後半から50代になり、社会の中枢を占める。この世代はフリーターになった者と会社員人生を歩んだ者に分かれており、世代内部で格差が大きい。そのため経済政策がこれ以上の格差を認めるかどうかについて、世代の中で対立が激しいのだ。
かつて日本の労働者は大企業を頂点とした雇用体制の中の正規雇用者が多かったが、いまでは非正規に主軸が移った。これを著者は「アンダークラス」(下層階級)と呼び、各種の統計資料を駆使し、学歴や卒業後初めての就職内容が、その後の人生にどう影響したかなどをつぶさに調べていく。
著者は日本の格差・階級問題を追求してきた社会学者だが、新著が出るたびに日本の将来は暗くなっていくようだ。
(毎日新聞出版 1400円+税)
「もはや老人はいらない!」小嶋勝利著
かつて日本には国が国民を守るのに十分な余力があった。しかし、低成長と政治の無策が重なって余力は激減。老人問題でも介護保険制度の始まった2000年ごろは介護職の相談先は国の機関だったが、いまでは各都道府県や市区町村で完結するしくみに変わった。
老人ホームに勤務して介護職を長年経験した著者は、制度と現場の実態の両面から老人問題の根本を考える。
一時は野火のように広まった介護付き有料老人ホームは淘汰の時代に入り、介護職員がめざしたケアマネジャーは大きく地位が低下。専門的な知識をさほど要さない介護職も人材の質が十分とはかぎらない。
事情に通じた著者は、低所得者のための就労型老人ホームの建設を提案する。また、体面を気にしたり会社時代の地位にしがみつきがちな男はホームには不向きとも警告する。目を背けてはならない現実に向かい合うためのよき本だ。
(ビジネス社 1500円+税)
「新自由主義の暴走」ビンヤミン・アッペルバウム著 藤井清美訳
コイズミ政権からアベ・スガ時代まで日本の財政は「ネオリベ」こと新自由主義経済学者に牛耳られてきた。竹中某はその代表的な存在だが、本をたどると米シカゴ大の経済学者M・フリードマンの思想に行き着く。本書は、このフリードマンに始まるアメリカの新自由主義経済学の系譜学。著者はニューヨーク・タイムズの経済記者ゆえ、人間的なエピソードを豊富にまじえ、ノンフィクションとして面白く読めるものになっている。
フリードマンは著書「資本主義と自由」でゴールドウォーターやレーガンら保守政治家のお気に入りになり、しだいに政界にも食い込んで、ついに民主党政権にまでその思想が受け入れられるようになった。しかし、「リーマン・ショックによって、その時代は終わった」というのが本書の結論だ。
(早川書房 3900円+税)