「コロナ危機と未来の選択」アジア太平洋資料センター編
社会の弱みと問題を容赦なくあぶり出している新型コロナウイルス。これからの時代に、強靱で持続可能な世界を実現していくには何をなすべきなのか。本書は、アジア太平洋資料センター(PARC)が昨年5月から行ってきたオンライン講座「COVID―19時代を生きる」の書籍化。人権や環境、政治などさまざまな切り口で、未来への指針を提言している。
欧州では、今回の危機を克服するための新たな政治の実践として「ミュニシパリズム(地域自治主義)」に注目が集まっている。地域、自治体からの主体的な民主主義を実践する考え方で、利潤と市場の法則よりも市民生活が優先される。カジノやオリンピックなどへの大型投資を行う政治とは対極にあるものだ。
その発祥は、2008年の世界金融危機の影響で貧困や格差が深刻化していたスペインのバルセロナだ。人々の暮らしから遠くなった市政に対し、若者グループなどが「バルセロナ・コモンズ」を組織。2015年の市議会選挙では見事第1党の座を獲得し、市長を輩出している。
今回のパンデミックでスペインはもっとも厳しいロックダウンがなされた国のひとつだった。しかしバルセロナ市政は住民のための新しい政策を次々に実行。無料で子供を預かるケアサービスを提供したり、社会的距離が取れるよう歩道を拡張したり、自治体が運営する歯科医院や葬儀社なども設立している。フランスの地方選挙でもミュニシパリズムの党が大躍進を遂げ、そのうねりは東欧にも拡大している。コロナ禍は、国家の中央であぐらをかく政治家を切り捨てる絶好の機会となっているわけだ。
パンデミックに何を学び、未来の行動にどう生かして行くべきかを考えたい。
(コモンズ 1320円)